奈央さんが簿記の勉強を始めたのは'10年のことだ。

「なのはなの経理を見ている税理士の先生が、なのはなの力になれたら、という思いで簿記部を始めることを提案してくれました。それは資格を取るためではなく、学ぶ喜び、コツコツと積み上げていく喜びを知り、自分の幅を広げ、会計を通して社会に貢献するための勉強です」

 簿記部がスタートしたときのときめきは忘れられない。

税理士の合格証書を持って
税理士の合格証書を持って
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「新しいテキスト、電卓、教室に机を並べての勉強。私は生まれて初めて勉強する子どものようでした」

 それは学校の勉強では味わったことのない感覚だった。純粋な「学びたい欲」がぐんぐん吸収し、簿記の3級試験から驚くことに税理士試験まで到達してしまう。

「自分にとって税理士というのはあくまでも手段なんです。社会の役に立って誰かに喜んでもらったり、どんな小さなことでも誰かの幸せのために生きていきたい」

 奈央さんの就職のニュースに、なのはなの卒業生、まちこさんとそらさんがお祝いにやってきた。それぞれに結婚し育児に忙しいが、「こうやって里帰りして、お父さんとお母さんの顔を見るとホッとする」と和やかに笑う。

「ずっと奈央ちゃんと暮らしてきた中で、一緒にいると温かい気持ちになるし、前向きな思いにさせてくれて。奈央ちゃんといることが私の心の支えになっていました」

 と話すそらさん。まちこさんも、

「まじめさ、芯の強さ、あきらめないところ、税理士資格の取得はそんな奈央ちゃんの集大成というか。なのはなの希望として、自分たちの目標になったことがうれしくて誇りに思います」

 4月15日、奈央さんは今年もフルマラソンに出場した。初めは自分のペースを確かめるようにゆっくり。

「最後まで順位に関係なく、みんなを感じて笑顔でいい走りをしたいと思いました。途中で私の後ろにずっと、ももちゃんがついて来ているのを感じました。足音を聞きながら、いい走りをしようと自分を律し、苦しいときもそれを支えに走れました」

 入居してまだ1年のももさんは、そんな奈央さんの後ろ姿をしっかり見つめてフルマラソンを走り切った。

簿記部で先生の代わりに教える場面も。「わかりやすい」と評判がいい。
簿記部で先生の代わりに教える場面も。「わかりやすい」と評判がいい。

 現在、奈央さんは人生で初めて社会人として働き始めている。

「これからまた新しいドラマが始まる予感がしています」

 奈央さんの笑顔が輝いた。長く苦しかった摂食障害からの回復の道のり。けれど、その軌跡が、同じように病に苦しむ人々を照らす道しるべになるだろう。奈央さんは今、希望の光になった。

〈取材・文/相川由美 撮影/中嶌英雄〉


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