居候から心の支えに
1年が過ぎたころ、また血だらけでふらふらになってやってきた。見るに見かねた丹さんは声をかけた。
「来いよ」
すると、ぶさおは歩み寄ってきて、丹さんのひざの上にちょこんと座ったのである。
「こっちがビックリしました。いくら前に飼われたことがあったとしても、しばらくは野良猫でしたからねぇ。奇跡的ですよ。飼い主に捨てられても、人間に虐待されても、人間に頼ってきたんですから。
さんざん酷い目に遭ってきたけれども、それでも生きるため、生きることに執着して、人間に頼ってきたんですよ」
その瞬間、丹さんは決めた。とりあえずは居候させてやろうと。
「段ボールに土を入れてあげたら、そこへすぐに排便排尿をしてくれたし、壁などをガリガリ引っかくこともなかった。去勢手術後は尿スプレー(マーキング行為)もしない。ほとんど手間はかかりませんでした」
それからのぶさおは、丹さんの部屋に頻繁に来るようになり、布団に勝手に入ってくるようになった。居候の身から、あっという間に飼い猫へと昇格したのである。
そのころ丹家には大きな変化があった。'10年に丹さんの父親が他界。'11年には離婚を経験し、その1か月後に東日本大震災に見舞われた。
「うちは半壊でした。玄関に亀裂が走り、家が徐々に傾きはじめた。隙間が多くなって、引き戸も閉まらなくなって家を建て直しました。つらいことばかりでしたけれど、ぶさおがいてくれたことがかなり大きかった。心のよりどころになってくれましたね」
と丹さんはしみじみと話す。