南アW杯前夜、メッチャ緊張!
この時点では楢崎に続く二番手GK。両親も「永嗣は出ないだろう」と考えて、地元のパブリックビューイングで応援することにしていた。
ところが、予期せぬ出来事が起きる。5月の韓国との壮行試合で日本は0―2で惨敗。岡田武史監督が進退伺いを出すという危機的状況に陥った。指揮官は理想を捨てて守備的な戦い方への変更を決断。キャプテンを中澤佑二(現J1・横浜)から長谷部誠(現ドイツ1部・フランクフルト)へ変更し、GKも川島を抜擢する大胆策に打って出た。これには本人も驚き、平常心を保とうと努めた。
「初戦・カメルーン戦の前日、“明日、W杯に出るんだ”と考えて、メッチャ緊張した覚えがあります。とにかく考えすぎないようにと思ってお笑いのDVDとかを見ましたね」
南ア中部・ブルームフォンテーヌで行われた歴史的一戦は、前半39分の本田圭佑(現メキシコ1部・パチューカ)の先制点で日本が首尾よくリードする。後半は相手の猛攻を受けたが、川島のスーパーセーブ連発で逃げ切りに成功。白星を得る。息子の一挙手一投足を日本で目の当たりにした両親は驚きを隠せなかった。
「“なんでここで見ているんですか”“南アに行かなくていいんですか”と周りの方に言われて、急いで女房と現地に飛び、2戦目のオランダ戦から駆けつけました」(誠さん)
オランダ戦こそ0―1で落としたものの、デンマーク戦を3―1で勝利し、グループ1位で16強入りした日本はパラグアイと120分間の死闘を演じ、0―0のままPK戦へ突入。川島は最初のキッカー2人の蹴ってくる方向を読み切ったが、惜しくも防ぎきれない。結局、5人全員に決められた。逆に日本は3番手・駒野友一(現J2・福岡)が失敗。史上初の8強入りの夢は幻となった。恩師・柏監督はこう分析する。
「永嗣は“自分が止めなきゃいけない”という思いが強すぎると、相手より先に動いてしまう傾向があるんです。冷静ならしっかり状況判断できるのに、どうしても熱くなってしまいがち。パラグアイ戦はまさにそうでした」
あれから8年。その教訓はしっかりと刻まれ、川島はひとつの境地にたどり着いた。
「PKに関しては“信じた方向に100%で行く”ことしか今は考えてないです。“自分が止めなきゃ”とか考え始めた時点で相手に負けている気がするから。そのときの感覚に従うことが大切ですね」