不妊治療は、まず検査で原因を調べ、特に問題が見つからなければ『性交渉タイミング法』(タイミング法)『人工授精』『体外受精』と進められるのが一般的だ。
タイミング法は病院で排卵日を見極め、それに合わせて性交渉をする。人工授精は採取した精子を濃縮し、排卵に合わせて子宮の中に入れる方法で、精子を凍結して使うこともできるため、夫の出張などを気にせずトライできる。
そして、体外受精では、排卵誘発剤を使って卵巣から複数の卵子を採取し、濃度を調整した精子をふりかけて受精させ、細胞分裂を始めた胚を子宮に移植する。もし男性不妊で精子が少ない場合などは、精子を1つ選び、卵子に針を刺して注入する『顕微授精』を行う。
「いまは20人に1人が体外受精で生まれる時代。凍結技術が上がって、よい状態の胚が複数あれば保存できるのが大きい。着床しなかった場合に負担なく次のトライができて、それで2人目、3人目を産むことも可能です」
30代後半で不妊治療を始める人は、少しでも若いころの卵子を使ったほうが妊娠の期待ができ、費用対効果もいいと田口先生。
「きょうだいが欲しいなら胚の状態で凍結保存しておくことをすすめています。また、体外受精は卵子を選んで受精させ、分割している胚を移植するので、格段に妊娠率が上がります。40歳前後で初診に来る人には効率を重視して、体外受精の説明から始めます」
気になる費用は?
厚労省の調査によると、人工授精や体外受精などの不妊治療をした場合、平均費用は193万円。田口先生によると、タイミング法は保険適用で1万円あまり、人工授精は保険適用外で3万円が相場だという。体外受精も保険適用外で、病院によって異なるが約35万円から顕微授精となれば50万~60万円ほどかかる。
そのため、国が不妊治療にかかる費用の一部を負担する助成制度をうまく活用したい。体外受精と顕微授精が対象で、1回の治療につき15万円まで(初回のみ30万円まで)支給される。
保存していた凍結胚を使う場合でも、7万5000円まで助成金を受けることが可能。39歳までなら最大6回、40~42歳なら通算3回まで利用できる(所得制限あり)。
自治体によっては国の金額に上乗せをしたり、独自の助成制度を設けていたりするところもあるので、事前に調べておこう。
「確かに、高齢になるほど子どもを授かる確率は低くなりますし、なかには43歳以上の不妊治療を断っている病院もあります。それでも続けていればチャンスはあるし、実際に45歳、46歳で出産した人もいます。
妊娠性の高血圧症や糖尿病に注意しなければなりませんが、技術は進み可能性は高くなっています。京大のチームがiPS細胞を用いて不妊マウスの正常な生殖細胞を作り、健常な子を出産させたというニュースもあり、医療現場が大きく変わる可能性も出てきました」(田口先生)
医療技術も、取り巻く環境も、めまぐるしく変わる高齢出産。リアルな実態を知り、適切な対応をしていきたい。
〈PROFILE〉
田口早桐先生 ◎医療法人オーク会・生殖医療専門医。体外受精を積極的に行う大学病院に入局して以来、25年間不妊治療に携わる。個々の状態に合わせた方針を見つけることがモットー。著書に『ポジティブ妊活7つのルール』(主婦の友社)など