停電の心細さを救ってくれたもの

 想像以上の“無音”の心細さに、ついにギブアップし、用事で近くを通るという親戚にお願いして、余っていた小さなラジオを貸してもらったのが日付の変わる頃。

 ラジオはかなり古いもので電波の入りにはバラツキがあり、一番鮮明に聴こえたのはニュースの多いAM局ではなく、ノリの良い音楽がかかりまくるFM局でした。

 深夜にベッドで聴くダンスミュージック。普段ならどう考えても安眠妨害必至な組み合わせですが、この時は自然と安心感が勝り、やっと短時間の睡眠をとることができました。

 電源スイッチの入/切ひとつしか状況は変わっていないのに、音があるだけで、人の気持ちはまったく変わる。

 そんな人間の不思議さと、音楽がある心強さを身をもって痛感したのは、まさにこの時です。

 そして、さらにラジオの力を知ったのは、つづく停電2夜目のこと。

 この頃になると各方面の尽力により、道内の5割の世帯で電気が復旧した状態になっていたのですが、わが家はいまだ復旧しないまま。

 電気がついて明るくなっていく遠くの夜空は、眺めるとなんとも切なく、復旧が遅れている現実へのどうしようもないストレスはやはり、人の心を静かに圧迫していきます。

 しかしそんなとき、そのストレスを軽減してくれたのも、ラジオでした。

 いまだ真っ暗なままの自宅でしたが、ラジオから流れてきたのは、緊急ニュースだけではありませんでした。

 先に電気が復旧した世帯や、また過去に同じような避難生活を送ってきたであろう他県の方から、避難世帯の心境を先読みしたメールと、リクエスト曲が時折、流れてくるように。

 この時、私がラジオの前で聴いた忘れられない一曲となったのが、ウルフルズの『バカサバイバー』。2004年11月リリースで、タイトルからして明るく突き抜けまくっている作品です。

 少なくともショックの大きい災害直後は、優しさや絆を歌われるよりも、この曲のようなハチャメチャに明るい曲の方が、前を向くことができやすいんだなと実感。

 気力が沸くとともに、真っ暗な家の中で、改めて被災者の一人としてすごく考えさせられる思いがありました。