親の高齢化を懸念『8050問題』

 2016年、内閣府は15歳から39歳までの「ひきこもり」が全国で推計54万1000人いると発表した。この調査は2010年、2015年と2度にわたって行われたが、いじめや不登校をきっかけに起こる「子ども、若者の問題」ととらえられていたため、40歳以上は調査の対象にされてこなかった。

 だが、'15年の調査でひきこもりの期間7年以上が34パーセントを超えたことが判明。当事者の年齢も上がっていると予測された。

 それを受けて内閣府は、'18年度に初めて、40歳~59歳を対象とした全国調査の実施を決めた。ひきこもりが長期化すると、親も高齢化し、介護が必要となったり経済的にも精神的にも苦しくなったりして家族が孤立化するおそれもある。親が70代、子どもが40代での問題は「7040」問題と呼ばれてきたが、今はすでに「8050」問題も浮上している。80歳になってひきこもりの子を抱える親の気持ちを考えると切ない。本当に親だけがいけなかったのだろうか。

 49歳でなおひきこもりを続けるひとり娘と暮らす京子さんは、まさにその「8050問題」に直面する当事者親子なのだ。

 子どものひきこもりが長期化すると、親たちはどういう気持ちと苦悩を抱えて日常を過ごすことになるのだろうか。

妻から見た「夫」、娘から見た「父」

 一軒家だから家賃の心配はいらない。夫の遺族年金と京子さんの国民年金で細々と暮らしている。ただ、ひとりっ子で、頼れる親戚もいないことから、母と娘は世間から隔絶されたように生きてきた。

「長い間、娘がひきこもっていると誰にも言えなかったんですが、あるとき娘の小学校時代を知っている人に偶然会ったことがありまして。気が弱くなっていたんでしょうね、つい“娘がひきこもっていて”と愚痴をこぼしたんですよ。そうしたらその方がいろいろ調べてくれて、家族会というものがあるから行ってみたらとすすめてくれました。

 家族会に来ると、“うちだけじゃないんだな”と少しだけホッとします。だからといって解決にはならないんだけど。ただ、一時期のような切羽詰まった気持ちは少し薄らぎました」

 自分の気持ちが少しでもラクになると、娘の一挙手一投足に目を光らせなくなる。それが娘にもいい影響を及ぼしたのか、このところ罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられることはあまりないという。

「どうしてこうなってしまったのかと考えると、ときどき胸が苦しくなります。夫は娘が小さいころから溺愛していて、娘に私立高校をすすめたのも夫。ただ、それが娘には合わなかった。合わないだけでなく、父親を恨むようになったのかもしれません。夫はちょっと強権的なところはあったけど、それはあくまでも娘を愛するがゆえ」

 同じ男性であっても妻から見た夫と、娘から見た父親像にはやはり乖離(かいり)があるのだろう。娘の抱く父への嫌悪感や拒絶感を、京子さんが理解するのはむずかしいのかもしれない。京子さんの娘と父親との相性もあるだろう。