他者支配により、医療を受けられなかった例

「暴力をふるわれ、アパートの階段から突き落とされて動けず倒れていたところを近所の人が発見。救急車で運ばれ、受診したのをきっかけに支援が必要だとわかり、生活保護を受けられるようになった方がいます。それまではギリギリの生活をしていました」

 この当事者、鈴木聡史さん(40代、仮名)の見守りを行っているのは介護施設の運営などを行う特定非営利活動法人のYさんだ。

 鈴木さんは東京都内で日雇いの工事現場の仕事をしていたが、手の指の切断とひざのケガがきっかけで働けなくなった。そんな鈴木さんに「一緒に食事をしよう。飲みに行こう」と親切そうに声をかけてきたのは同じアパートに住む男女だった。この出会いが、暴力と借金の犠牲になるきっかけとなったという。

 男女は仕事を失い孤独な鈴木さんの心細さ、寂しさにつけこみ、一緒に食事をと言いつつ飲食代をたかった。鈴木さんの少ない蓄えはたちまち底をつく。すると「住むところがないなら家に来ていい。1泊3000円で泊めてやる」と鈴木さんに持ちかけた。もちろん、鈴木さんにお金はない。飲食代と家賃を払えないなら借りてこいと、暴力をふるうようになった。

 明らかにカモにされている鈴木さんに助言をしてくれた人もいた。鈴木さんらが通っていた飲食店の店主だ。

「あいつらとは距離を置いたほうがいい」と心配され、声をかけられたが、そのころの鈴木さんは暴力への恐怖から正常な判断はできなくなっていた。逃げることなどできず、男女に言われるがまま複数の金融業者から金を借りた。ふくれ上がった借金は数百万円にのぼっていた。

「お金がありませんから、その生活から抜け出すために通院してひざを治し、仕事に復帰しようとは当初、思い至らなかったそうです」

 現在、鈴木さんは生活保護を受けて通院している。健康状態も暮らし向きも改善してきた。まだ40代と若いので再び働き、自立したいと考えている。