僕にはぴったり、まさしく転職です
渋谷区の都立代々木公園に向かった。建て替え中の新国立競技場にも近く、五輪時は相当な人出が見込まれる。
公園内外に25張りのテントがあった。渋谷門近くに5張り、南門の歩道橋下に20張り。公園では沖縄県出身の新垣二郎さん(61・仮名)が鉛筆画を描いていた。
「いまのところ、撤去しろとは言われていない。もちろん、イベントのときはほかへ移さなければいけないですけどね。ここは近隣で1日に2回も炊き出しがあるところなので非常に住みやすいんです」
新垣さんは東京・赤坂で長年、バーテンダーとして働いていた。バブル時代にはチップが給料と同じときもあったが、気を遣う接客業にだんだんと嫌気がさしてきて、派遣の現場作業員に身を転じた。
「肉体労働なので50歳を過ぎると徐々に仕事が若い人に回ってしまい、稼ぎが減った。だから思い切ってホームレスになった」(新垣さん)
生活保護に誘われて1度だけ宿に入ったことがある。しかし、同じ部屋の人とケンカして飛び出した。
「やっぱり、人と接しなくていいし、仕事をしなくても全然、生きていけますからね。とはいえ、テキヤさん(露天商)の手伝いをときどきやることはありますけど。幸いなことに酒もタバコもギャンブルもやりませんから。
こんなんだったら、もっと早くこの生活に入っていればよかったと思いました。僕にはぴったり、まさしく天職です(笑)」
2年後はどうするのか。
「そばに競技場があるので、もうすぐ、間違いなく、住めなくなるでしょうね。そうなったら、その時期はほかの場所を探しますよ。だけど、五輪が終わったら、再びもとの公園へ戻れると思っているんですけどね」
と遠くを見つめた。