熊本市では、保育園の待機児童はゼロと言われているが、希望する保育園に入れない「保留児童」が403人いて、あきらめた場合は保留児童にすらカウントされない。仕事をしたくてもできない母親たちの悲痛な声は多数ある。
当事者の声を聞いてもらうためには、前例をつくるしか手段がない。そう考えた緒方市議は、乳児連れで議場に姿を現した。男性議員に囲まれた緒方市議の姿は世界中に発信され、熊本市議会は国内外から批判を受けた。その結果、風当たりは一層強くなっていったという。
前述した「のどあめ事件」は、そんななかで起きた。
「議員の発言権を奪うことは、市民の権利を奪うこと。せきをすれば“出て行け”と言い、のどあめを口に含めば“出席停止”にする議会に、驚きを隠せませんでした」
「女性活躍」は労働力不足を補うため?
男女格差の度合いを示す指標に『ジェンダーギャップ指数』がある。日本は144か国中、114位。なかでも政治分野での格差が大きい。例えば、女性議員の割合は世界平均の23・4%に比べて、日本の場合、衆院で10・1%と少ない。
特に地方議会では悲惨といえる状況で、女性議員が1人もいない市町村議会が全体の2割にのぼっている。
「政府のいう“女性活躍”とは結局、労働力不足を補う意味でしかなかったのではないでしょうか。この間、政策決定の場に女性が増えることはなく、非正規雇用の女性ばかりが増えました。
今年5月には女性議員を増やそうとする法律もできましたが、あくまで努力義務。本気で取り組んでいるようには思えません。女性議員を増やす努力すらしていない政党も見受けられるほどです」
暮らしと政治は密接な関係にある。地方議会ではなおさら、と緒方市議は言う。
「女性議員を増やさなければ政治に女性の声が生かされなくなります。子どもたちにも影響がおよぶでしょう。なぜなら、子どもの声をよりよく代弁できるのは、子育てを担っている母親なのだから」
《PROFILE》
緒方夕佳熊本市議 ◎1975年生まれ。東京外国語大学を卒業後、米大学院留学を経て国連などで働く。2015年、熊本市議会議員選挙で初当選。家族は夫と子ども2人