「娘が小学校に入ってからが大変でした。保育園のように長くは預かってもらえないから、学童保育を使って、仕事と家事と育児にフル回転。夫は仕事一途でワンオペ状態。つらかったですね」
昼も夜も学校のクラスを持たされる生活に疲れ果て、30代半ばでうつ病が再発。半年ほど休職して、とうとう転職を決意した。そしてITエンジニアとして再出発を果たす。
「企業に出向いて、パソコンのネットワークをつなげたりする仕事で、仕事内容は気に入っていたんです。ただ、社内の人間関係が合わなくて数社を転々としました。すごく無理していたと思う」
専業主婦になれず何度もひきこもる
数か月仕事をしては数か月家にこもるという生活が始まった。家にこもっているときは専業主婦なのだから、きちんと家事をやらなくてはと考える。ところが、例えば、片づけをしようと思えば思うほど、家が散らかっていく。もともと整理整頓は苦手だった。しかもハウスダストアレルギーになってしまったという。
私も整理整頓ができないタイプなのでよくわかる。どこから整理したらいいかわからない。場所を決めればいいと言われて片づけ始めても、そこにあるものをどこかに移動させるだけで終わってしまう。結果、こちらは片づいても移動させた先ががらくたの山になっていくだけなのだ。片づけが苦手な人間には整理整頓は拷問のようなものである。
佳奈さんは、とうとう仕事もできなくなり2009年の秋から夫の扶養に入った。だが、「何もしない自分」に我慢ができない。「夫に扶養されている」ことでさらに自分の存在価値が揺らいだ。
母に「女の子だから行動を制限された」時代を経て、結婚して自立したつもりだったはずだ。だが、またも扶養されなければいけない身になったことが、焦りを生み、「敗北感」すら抱かせたのではないか。
翌年4月からは夜間の大学院に通い始めた。夜間とはいえ、大学院にはそう簡単に受かるものではない。彼女の優秀さの表れである。だが彼女自身は、「なんとかリア充を装うのに必死だったのかもしれない」と振り返る。
当時は新薬の治験に参加するほど、うつ状態がひどかった。昼間はほとんど寝たきり状態。娘は働いていたときと同様、近くに住む義父母の家で面倒をみてもらっていた。薬が合わずに体調がおかしくなっていったが、なんとか大学院には通った。
「組織の中で働くのは向いていないかもしれないから、ビジネスを起こすことはできないだろうかと経営なども学んでいました」