─終活の一環でご自身の不動産を息子の裕太さんに譲る準備をしているそうですが?

「…………」

 裕太の名前を出すと表情が硬くなった。

─不動産の管理ができるように、裕太さんが宅建の試験を受験されたそうですね?

「とりあえず事務所に聞いてください」

 少々疲れた様子で、迎えの車に乗って去ってしまった。

 裕太の相続に関して所属事務所に問い合わせたが、期限までに回答はなかった。

 高畑は過去の雑誌のインタビューで、自身の生き方と死への姿勢を語っている。

《ありがとうと言って死ねるような生き方をしたいなぁ。母親は生きているときと、あともう一回、死ぬときにひと働きするとも思います。子どもたちが思い出す存在というのかな。自分は消えてなくなるわけだけど……》

 子どもたちへの母としての深い思いが込められた言葉だ。

 裕太が受けた試験の結果は12月に発表される。母を悲しませた息子は、思いを受け止めて恩返しをすることができるだろうか……。