「強さの秘密」を大学で調査
小さな身体でなぜ、これほどの快挙を成し遂げられるのか─。その秘密に迫ったのが、運動生理学が専門の、筑波大学・勝田茂名誉教授らのグループだ。三重子さんが97歳のとき体力測定を行っている。
勝田さんは三重子さんと会ったときの印象が忘れられない。驚きの連続だったからだ。
まず、スーツを着て大学に現れたことに驚いた。
「おしゃれで上品なんですね。ジャージ姿で来られる方もいるので印象的でした」
検査をしてもその数値に驚いた。特に骨密度とスタミナの強さを示す最大酸素摂取量。前者は75~79歳レベル。後者は70歳代のレベル。三重子さんの泳ぎを支えているのは、この最大酸素摂取量だろうと勝田さんは見ている。
もうひとつ目を見張ったのは、太もものMRI画像だ。
「筋肉についている脂肪の量が少なかったんです。筋肉を覆う筋膜のまわりに脂肪がたくさんついていると筋力を持続的に発揮するにはマイナスになります。それがほとんどない長岡さんの筋肉はきわめて優れているといえます」
勝田さんはこの肉体の背景には、32年間続けた能楽の影響が少なからずあるとみる。例えばゆっくりした動作は、いま風にいえば「スロートレーニング」の要素がある。
宏行さんによれば、謡は長い息で声を出すので、相当の肺活量が必要になるはずだという。勝田さんはこう話す。
「そう考えると、泳ぐためのトレーニングを30年以上やっていたともいえます」
それとは別に、101歳までひとり暮らしを続け、活動的であったこともよい影響を及ぼしていると思われる。広い家を毎日掃除。古い家なので、バリアフリーとは無縁のバリアだらけの構造で、気を抜くと躓いてしまう。
プールには週3~4日通い、約1時間泳ぐのだが、自宅からプールまでの片道50分を歩くことも珍しくなかった。
これだけ身体を動かすと、お腹も減る。料理は自分で作っていたが、勝田さんらの栄養調査チームが日常の食生活を調べると、1700キロカロリーとっていることがわかった。70歳の人が目標とする量に匹敵する内容だった。
しかも泳ぎにかけるエネルギーがピークになった95歳ごろからは、肉を積極的に食べる習慣が加わった。練習でお腹が減ってしまうのか、夜に空腹を覚え、肉を食べることもあった。