両陛下の前で「くまモン体操」を披露
グランプリ優勝後、くまモンは日々、忙しくなっていった。だが彼はいつでも元気いっぱい、仕事に全力投球していく。そんなくまモンを見て、知事は「くまもとから元気をプロジェクト」を立ち上げた。全都道府県にくまモンが出向き、元気を届けるプロジェクトだ。全国どこでも、大歓迎を受けた。以来、くまモンは熊本の旗振り役に成長。
蒲島知事は人気が高まった理由として3つを挙げる。
「1つはシンプルでわかりやすいデザイン。2つ目は、くまモン自身の努力。そして3つ目は楽市楽座の方式。くまモンの使用料を無料にしたので、くまモンの共有空間が広がった。認知度や人気が高まり、熊本県を広めることにつながると考えたんです。この先、100年愛されるキャラクターにしたいと考えています。もっとも、当初は新幹線が全線開業して1年くらいで、くまモンもお払い箱という見通しもあったんだけどね(笑)」
最後の知事の言葉に、隣に座っていたくまモンがイスから転げ落ちそうになった。
くまモンは知事の教えに従い、さまざまなことに挑戦してきた。バンジージャンプや歌舞伎での毛振り。能や落語も習った。ピアノも弾ければ絵もなかなかうまい。毎年、書き初めでその年の干支の絵も披露している。一方で、県内の保育園や幼稚園、介護施設などへの出没は今も定期的におこなっている。くまモンは熊本の営業部長であると同時に、常に人にしあわせを運ぶ「しあわせ部長」なのだ。
2013年7月、くまモンにとっての新たな拠点ができた。熊本市の繁華街ど真ん中にできた「くまモンスクエア」である。現在は週に5~6日、くまモンが登場し、ステージでくまモン体操を踊ったり、「営業部長室」で来場者とふれあったりする。
ここで館長を務める大川聡志郎さんによれば、この5年間でスクエアを訪れた人は225万人を超える。120人の定員なので、くまモン出勤時はいつも入館制限がかかる。それでも来た人たちは外からくまモンの様子を見つめて動かない。
「私も熊本の生まれ育ち。もともと、くまモンが好きでした。この5年半、くまモンはいつも元気で一生懸命。外で待っている人たちにも出入り時に必ずハイタッチ。子どもに対しては自分がしゃがんで目線を同じにする。誰に対しても公平公正ですね」
大川館長にとっては、くまモンは“上司”である。その上司は部下にしょっちゅういたずらをしかける。
「入館制限の関係上、私はカウンターを持って来場人数をチェックするんですが、くまモンはひょいとそれを取り上げ、カウンターをばばばっと押してほれっと返してくる(笑)。人数がわからなくなって困るんですよ」(大川さん)
「してやったり」という、いたずら好きのくまモンの表情が浮かんでくるようだ。
その3か月後、くまモンはなんと天皇・皇后両陛下の前でくまモン体操を披露することになる。10月『全国豊かな海づくり大会』出席のため熊本県を訪れた両陛下だが、一説には数日前になって皇后陛下が「くまモンさんに会えるのかしら」とおっしゃったそう。そして当日、知事がプレゼントしたくまモンの金バッジを胸につけられ、踊るくまモンをにこにこしながらごらんになっていた。
「ものすごくドキドキしたモン」
くまモンはそう語るが、いつにもましてキレッキレの体操を披露したのだった。後にも先にも天覧ダンスをおこなったご当地キャラはいないだろう。
だんだんと海外出張も増えていった。韓国や中国を皮切りに、アジアに熊本のおいしいものを売り込んだ。今までに19の国と地域を訪れている。初めてフランスを訪れたのは2013年。以来、毎夏、パリでの『ジャパンエキスポ』に出場、それだけではもったいないと県の働きかけでフランスはじめヨーロッパ諸国の企業ともコラボすることが増えた。
例えば、テディベアで有名なドイツのシュタイフ社は、「テディベアくまモン」を作った。1500体限定でネット発売されるも5秒で完売という記録を打ち立てている。フランスのバカラでは、クリスタルのくまモンが作られ、イギリスのMINIでは、くまモンバージョンの車がプレゼントされた。ドイツのライカでは、くまモンのカメラを作ってもらったし、イタリアのデローザ社では、くまモン自転車も。そして、フランスのVIP専門写真館であるスタジオ・アルクールでの撮影。世界の一流スターのようなカッコいい写真を撮影してもらっている。
「最初は、こちらが必死に何かできないかと頑張りましたが、そのうちくまモンに惚れ込んでコラボしたいと言ってくれるところが増えたのが本当にうれしい。人を惹きつける何かがあるし、それも、くまモンの人格なんだと思います……ん、くま格?」(成尾さん)