イラストレーターのこうきさん(25)も、母親に筆舌に尽くしがたい虐待を受けた過去を持つ。現在はクラウドファンディングで集まった資金で絵本を出すなど、「小さいころから好きでした」という物語を作り出す世界に自分の居場所を確保できているが、
「嫌い、あんな最低な人」
と今も母親(52)への嫌悪感がわだかまる。
虐待の“近所バレ”を気にする母
「僕の中には消化できていない怒りや憎しみのパワーが常にあって、それを抑えられているのは、僕を応援してくれた人を裏切っちゃいけない、悲しませてはいけないという思いがあるからです」
こうきさんは5年前から、東京・新宿のバー「A Day In The Life」で働いている。作家の伏見憲明さんが経営する店で、裏切れない人々とはここで出会った。
「専門学校へ入学する準備をするためレストランで働いていたんですが、そこでもいじめられていました。居場所がなくて……伏見さんの店に飛び込みました。
僕に大学進学をすすめてくださったり、僕が胃腸炎になったときに伏見さんが病院に付き添ってくださったり、父親ってこんな感じなのかなと思いました。店にはマスコミの人たちも多く来るのでイラストの仕事をくださったり、僕のことを面白がってくれたり」
そこで、こうきさんは自身の虐待経験をポツリポツリとしゃべるようになったという。
「幼稚園のころから、とにかく母は僕を怒鳴りつけましたね。家の外に出されていたんですが、虐待の“近所バレ”を気にしたのか、押し入れに閉じ込められるようになりました」
だがそこは、こうきさんをむしろ安堵させたという。
「暗くて怖かったけど、ぶたれないですむ安心感もありました」