楽しい今日を送るために

たまにはズルすることも必要

 3年前、94歳で亡くなるまでは父のケアをして、今は91歳で認知症の母を介護中ですが、世の中にはもっと深刻な介護をしている人がいっぱいいますからね。

 私は極めて楽をしてると思います。兄ひとり弟ふたりと、たまに意見の食い違いはあれど、基本的には協力して交代でやってますし。

 安心してお任せできる方が平日は面倒をみてくれているので、めちゃくちゃラッキーなんですよ。

 介護や家事をすべて完璧にして、しかも対外的には笑顔を絶やさないというまじめな人も世間にはいらっしゃいますけど、私はいっぱい人に助けてもらってるし、ときにはズルもします。

「頭に来た!」とむしゃくしゃしたら、介護をサボってゴルフに行っちゃう。そのぶん誰かにシワ寄せがいったり、本人を我慢させることになるんだけど。自分がズルしちゃったと思うと、その後は優しくなれるでしょ

 私の場合は、介護の経験が仕事にもつながってますしね。「絶対無理」と断っていた新聞小説も、介護のことなら書けるでしょと乗せられて、『ことことこーこ』という小説を書き上げることができました。

若い時より今のほうが楽しい

 親がだんだん弱っていく姿を見るのは情けないし、寂しいことですけど。昔と比べてもしょうがない。年取るとこうなっちゃうのかぁ、ハッハッハ、と笑うしかない今いいところ、面白がれるところを、見つけるようにしています

 昔と比べてもしょうがないというのは、自分自身にも言えることですよね。今の自分と若いころの写真を比べたら、シワも増えたし残念に感じますよ。でも、生きてるかぎりは枯れていくもんだし、それをもとに戻そうなんてのは、不遜でしょ

 よく「20代に戻りたい」っていう人いるんですけど、「なんで?」って思っちゃう。だって私は今のほうが楽しいもん。まぁ見た目は若いほうがいいかもしれないけど。

 あのころのほうが心はつらかったなぁ。うるさい父親から脱したいと思いながら何もできなかったし、恋に悩んでどうせ私はダメな女だと落ち込むことも多かったから。

 今は忙しくてつらいと思うほど仕事があって、それはありがたいことですしね。いろんなことを笑っちゃうぐらいの余裕もできた。年を取るとともに失ったものをもあるけど、得たものはたんとありますもんね。だから、あまりマジマジと鏡は見ないことにしてるの。今のほうがシアワセだぞって思うためにね。

週刊女性の読者に向けて

 そうねえ……。、週刊女性に書いてあることすべては信じないように。(編集長の「そんなこと言わないで」という突っ込みを受け流す阿川さん)このページも含め、勝手なこと言ってるゼって笑ってやってくださいませ。

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『いい女、ふだんブッ散らかしており』
阿川佐和子/中央公論新社(本体1200円+税)※1月10日発売 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

【出演テレビ】
TBS系『サワコの朝
毎週土曜午前7時30分~
テレビ朝日系『ビートたけしのTVタックル
毎週日曜午前11時55分~

PROFILE●あがわ さわこ●1953年11月1日、作家の阿川弘之さんの長女として誕生。慶応大学文学部卒業後は、織物職人を目指していたが、'81年からテレビの仕事を始め、『筑紫哲也のNEWS23』などのアシスタントを担当するなどして活躍。'92年、30代の終わりにそれまでの仕事をいったん辞め、1年間アメリカで過ごした。
 帰国後、『報道特集』でキャスターに。40代からは『週刊文春』の対談の聞き手となったり、『ビートたけしのTVタックル』で個性の強い出演者と絶妙なやりとりをしたり、新しい魅力を発揮。'99年、初小説『ウメ子』を発表、執筆活動にも力を入れるようになり、2012年『聞く力』がベストセラーに。'17年結婚。現在、91歳の母親を介護しつつも、多方面で活躍を続けている。

(構成・文/伊藤愛子)