発達障害は、少数派の「種族」である
発達障害は、病気というよりも、少数派の「種族」のようなものと考えるべきです。 多数派が少数派のことを理解して、お互いに助け合っていくことによって、偏見や差別が少しでも減らせるのではないかと思います。そうすれば、発達障害の特性があっても「障害」とは言わなくてよい人たちが、いまよりも増えていくに違いありません。
また、「黒ひげ危機一発」ゲームの例でいえば、通常とは違った遊び方を楽しんだからといって、通常の遊びを楽しむ能力の欠損があるわけでも、能力が劣っているわけでもありません。
もしも、楽しみ方に優劣があると考える人がいるとすれば、それは多数派のおごりでしょう。自閉スペクトラム症の人たちの楽しみ方は、ただ少数派というだけです。
そして、発達障害(とくに自閉スペクトラム症)の特性がある人たちの社交の仕方は、そういう微妙な対人関係よりも自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいスタイルだとしかいいようがありません。
そのスタイルがいい悪いということはなく、それぞれにスタイルがあるというだけの話なのです。
発達障害の特性を「選好性」としてとらえる
少し専門的な話になりますが、私は発達障害の特性を「〜が苦手」という機能の欠損として考えるよりも、「〜よりも〜を優先する」という「選好性の偏り」としてとらえたほうがしっくりくるように考えています。ここでいう「選好性」とは、Aというものではなく、Bというものを選ぼうとする生来の志向性のようなものです。
たとえば、「雑談が苦手」という特性は「雑談よりも内容重視の会話をしたがる」という具合に、「対人関係が苦手」という特性は「対人関係よりもこだわりを優先する」という選好性としてとらえることもできます。
また、注意欠如・多動症の特性を「じっとしていることが苦手だが、それは思い立ったらすぐに行動に移せるという長所でもある」というとらえ方もできます。
このコラムによって、より多くの方に、発達障害の方の志向性や社交のスタイルなどに関心をもって、理解していただくことにつながれば幸いです。
文/本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室・医学博士)
本田秀夫(ほんだひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より現職。日本自閉症協会理事、日本児童青年精神医学会代議員。
2013年刊の『自閉症スペクトラム』(SBクリエイティブ)は13刷5万部超のロングセラー。