326さんにとっての大きな出会い
だまされ続けた所属事務所から逃げるために、いろいろな人が326さんを助けてくれた。イベントを通じて出会った漫画家・さくらももこ先生や、糸井重里さん。さくらさんには弁護士の紹介までしてもらったという。
「“あれはちょっとひどい”って怒ってくれて、何のメリットもないのに助けてくれた」
そして326さんには大きな出会いが訪れた。いくつかの事務所を渡り歩いたのち、フリーランスとなり、『19』当時の修羅場を振り返る企画で有吉弘行さんの番組『有吉ジャポン』に出演。この時に共演した、タイタンの太田光代・代表取締役社長との出会いだった。
「台本にまったくないことは、テレビの世界ってやらない。ところが、光代社長は台本をガン無視で“あなた今、どこに所属しているの”。“僕、今フリーです”と答えると、光代さん、台本にないことをいっぱい言い始めたんです。皆も有吉さんもビックリしているけど、“面白いからそのままいっちゃえ”って」
光代社長は「このあと名刺渡すね」と本番中に言い放ち、収録が終わった瞬間、本当に名刺を渡してくれたという。
「“いつ空いているの?”って言われ、その場で次に会うスケジュールを組んだんです。それから、東京・阿佐ヶ谷にご飯を食べに行ったんですね。すごく美味しい、シャトーブリアンのお肉を食べさせてもらった。で、“おうちに行きましょう”。話の展開が早いんです」
あれよあれよの展開で、光代社長の自宅でシャンパンを開けながら、彼女は一言、「いつから来る?」。タイタンに所属しろというのだ。
「この人、面白いな。社交辞令のはびこる芸能界、嫌な人たちもいっぱい見てきたけれど、魅力のある人だな、と思ったんです。“この人だったら”と思えた。だから、“行きます”ってその場で答えたんです」
タイタンでは、芸能事務所としての業務のかたわら、社内外から著名な講師を呼び、学び合う講座「タイタンの学校」を開設している。326さんはそこで講師も務めている。
「当初は絵を教える授業をやってくれ、と言われたんですけど、絵なんかよりプレゼンの方が大事じゃないですか、この業界。教えるなら、プレゼンを1時間教えたい」
これがたちまち人気講座となり、コマ数も講座内で最大になり「看板講師」になったという。人材育成にも携わることができた。
「光る部分を見つけるプロデューサー的な目線も一応評価していただいた。人の良い所、広がる所、伸びる所を見るのが好き」
現在、326さんは、アニメ『やさしいあくま』、童話『世界一ブサイクなぬいぐるみ』の製作にも勤しんでいる。
「昔から続けて来たものが全部役に立っている。先生も、テレビも。『19』でゴタゴタしたり、所属事務所で困ったりした時を経て、今は困っている人がいたら助けようって思えるようになった。すごく嫌な思いだったかもしれないけど、必要な経験だったかな」