326さんにとっての平成とは
平成がもうすぐ終わる。振り返って心になお残るのは、さくらももこ先生の言葉だ。
「さくら先生が助けてくれた時、僕、20歳くらいかな、僕が何を言ってもお返しをさせてくれなかった。当時の僕は『売れているのに貧乏』っていう状態。さくら先生にはメリットがひとつもないのに、ずっと時間かけて助けてくれた。
“お願いだから恩返しさせてくれ”って言ったら、笑いながら“いいのよいいのよ。でも、それは私にじゃなく、今のあなたと同じように、これからあなたが出会う人で困っている人を助けてあげて”って言われたんです」
以降、個展などの場で若い世代のアーティストと組む時には、さまざまな形で326さんは手助けを心がけてきた。
「さくら先生の存在がなかったらそれはやってないな。お別れの式で、“僕、頑張りますね”って宣言したんです。まるちゃんの絵が飾ってあって、お花がたくさんある前で。きっと聞こえているはずだ、という感覚を持って」
まるちゃんの笑顔。さくらさんはこんなふうに多くの作品を残し、皆が寂しくないようにしてくれた、それは自分にもできること。そう思った326さんは、電子書籍として過去の本を読めるようにした。アニメーションは子どもたちに共感を呼び、視聴が広がっている。
「土を耕し、種を植え、芽が出てっていう状態で、今もう少しで平成が終わるのを迎えられる。次の年号が始まった時、手にしたこの勢いを無駄にせずに、より良く生きていきたいんです」
326さんの言葉に「花が咲かないときに根が育ち、花が散った後に実が実る」というのがある。
「土を耕すのが長い時期もありました。芽は出ないのかって不安な時もあったし、目に見える成果が出ない時期もあった。でも、目の前にある種を食べちゃったら終わり。これは育てなきゃ。木にしなきゃいけない。実のなる木に」
毎回、どんな作品でも世界を変えられると信じ、326さんは発信している。
「気付かないところで誰かにそれが伝わり、その言葉を胸に頑張ってくれて、何か大きなことをしてくれる可能性もある。直接、自分が恩恵を受けなくても、それでもやらないと、っていう感覚があります」
完成も大事。完成までのプロセスを見せるのも、また大事。大失敗し、恥ずかしい姿を見せるところも含め、意味を持つ。数々の苦難を乗り越えたからこそ、326さんは信じている。
「時代が変わるということは、“ここはひとつ、お前も頑張れよ”と言われたような気分。元年から10年後までに、どんな自分がいるんだろう。やりがいを感じます」