《担当していたアーティストのことが人間としても好きだったから我慢して働いていたが、限界がきてしまった》
2月14日、都内で記者会見をしたのは、いきものがかりなどが所属する芸能プロダクション『株式会社キューブ』に勤務していた20代男性のAさん。Aさんは1か月の残業が最大204時間46分を数え、'17年にはなんと1年のうち10か月間が過労死ライン超えだった。渋谷労働基準監督署はこの専門業務型裁量労働制を無効と判断し、『キューブ』に対して残業代未払いで是正勧告を行っていたという。
専門業務型裁量労働制は、企画業務型裁量労働制、事業場外みなし労働時間制度と同様に、労働基準法38条で定められた3つの“みなし労働時間制度”のうちの1つ。
1日何時間働いたとしても、みなし労働時間分しか働いていないとされ、それ以上の時間外割増手当の支払いや、残業時間規制を逃れることができるため、合法的な“定額働かせ放題”になるという批判がある。
今回の事例のように、早朝深夜問わず長時間働いているイメージの芸能界。現在は少しずつ働き方改革が行われているというが……。テレビ局でドラマ制作に携わっている男性スタッフに聞いてみると、
「テレビ番組の制作会社では、ほぼ変化はありませんが、テレビ局社員は長時間労働が規制されるようになりました」
テレビ局の社員と制作会社の社員とでは、勤務時間に差が出るのだという。
「例えば、アシスタントプロデューサーという、プロデューサーの下につく人間が局員で、プロデューサーが制作会社の人間だとします。ドラマ制作で、連日連夜の仕事は多々あることですが、それが続くと局員はどこかで必ず休みを取らなければならないんです。上司であるプロデューサーが仕事をしていても、局員だからという理由で帰らなければならない。申し訳なさそうに帰っていく姿をよく見ますね」(同・キー局ドラマ制作スタッフ)
大きな課題もあるなか、テレビ各局で細かい違いはあれど、最も過酷な仕事と言われる“AD(アシスタントディレクター)”を早く帰そうという動きは共通している。
「昔は泊まり込みで仕事をするのが普通だったADが、早々と帰宅する光景を目にします。同じ時間に出社しても、ディレクターよりADが先に帰ることもありますからね」(制作会社ディレクター)
ADは雑用だけでなく上からふられて行う仕事も多い。“厳しくしすぎると辞めてしまうのでは”という思いに駆られて、プロデューサーが必要以上に優しくしてしまうケースも少なくない。その弊害もあるとのことで……。
「ADが早く帰るようになって、そのしわ寄せがディレクターに来ている部分はあります。ADが終わらなかった仕事を引き継ぐのはディレクターなので……。また、“ディレクターは作業をするけどADは帰る”という現象で、先輩の作業を見て学ぶということが難しくなっています。やる気があってバリバリ働きたいADもいるので、それは少しかわいそうですね」(同・制作会社ディレクター)