千秋楽にはすごい
ご褒美を得ていたい
地道な努力を重ねてきた結果として、急激に売れっ子となった小手さん。その変化をどうとらえている?
「僕自身は、変わったつもりはないんですが、若干タクシーに乗ることが増えたかな(笑)。いままではタクシーを利用するなんて悪だと思っていました。いまは忙しいから時間を買うという意味で、“1メーター2メーターくらいは使っちゃおうよ”ってささやく自分にあまり抵抗できない(笑)。一昨年の自分なら考えられませんでしたね」
バラエティーなどでも愛すべきキャラクターが受けているが、そのイメージと、演劇人としての小手さんとのギャップがまた魅力。
舞台『子供の事情』で彼に“恐竜が大好きすぎて博士級の知識を持つおっとり少年”の役をつけた三谷幸喜さんも“思っていた人と違った”と、イメージと実像の差に驚いたひとり。
「『真田丸』で演じた役の印象もあって、僕をわりと、勢い重視で“インパクトが残せれば御の字”という外向きタイプの人間だと思っていたようです。
でも稽古場で話していて“あれ? 内向き?”と戸惑ったと。僕が感性で役作りをするタイプではなく、かなり繊細に、論理で組み立てていく人だということが、すごく驚きだったそうで。
実際、テンション高めの役のほうが多いんですが、意外に僕は、作り込む俳優なんですよ(笑)」
海外の演出家(ウィル・タケット氏)とは初タッグという今回の稽古場でも、繊細な役作りが評価を呼ぶはず。千秋楽を迎えたとき、小手さんはどんなご褒美をもらっていたい?
「この稽古、本番を経たとき、間違いなく相当なご褒美がもらえていると思うんです。それがどんなものか、想像するだけでワクワクします(笑)。
僕は海外の演出家とは、ロバート・アラン・アッカーマンさんのワークショップを1週間受けたことがあるだけ。そのとき、ある俳優同士の実演を見ていたアッカーマンさんがキレて、“トーク!”って怒鳴ったんです。
僕らは日本語がわかるから意味のキャッチボールとして受け取れたけど、言葉のわからない人から見たら、感情の受け渡しが成立していない、会話になっていなかったんだと気づきました。
言語が通じない人に対して、コミュニケーションが成立しているさまを見せるために何ができるんだろう? 僕はその1週間で完全な答えは出せなかった。今回は1か月の稽古を通して、きっとウィルさんともそういう場面が発生すると思うんです。
その中でウィルさんに抗(あらが)い、ぶつかり合った末に答えを見つけられたら、すごいことになると思う。大げさですけど(笑)。それが僕のご褒美であるべきだと思っているので、それを得るためにがんばります!」
■俳優とオーケストラのための戯曲『良い子はみんなご褒美がもらえる』 『恋におちたシェイクスピア』などで知られるトム・ストッパードが『マイ・フェア・レディ』の音楽家、アンドレ・プレヴィンと組んだ異色作。独裁国家にある精神病院の一室で、政治犯のアレクサンドル・イワノフ(堤真一)と、オーケストラを連れているという妄想を抱く同名の男(橋本良亮)を、社会はどう扱うのか? 演出は、バレエ界出身のウィル・タケット。共演はシム・ウンギョン、斉藤由貴ほか。4月20日~5月7日 赤坂ACTシアター、5月11~12日 大阪フェスティバルホールで上演。 公式HPはhttp://www.parco-play.com/web/play/egbdf2019/
●こて・しんや●1973年12月25日、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、’98年に劇団innerchildを旗揚げして脚本・演出・出演を務める。映画は『不灯港』で初主演。幅広いジャンルで評価を得てきたが、2018年に月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』で大ブレイク。その後、『SUITS/スーツ』『私のおじさん~WATAOJI~』などで、さらに人気が加速中。4月より朝の連続テレビ小説『なつぞら』に出演、日曜劇場『集団左遷!!』に出演。5月には『コンフィデンスマンJP』の映画版とSPドラマが控えている。
(取材・文/若林ゆり)