バラエティーで刷り込まれる価値観

 テレビのバラエティーに出る女性は、職業によって人格や行動が決められてしまいます。例えば、オンナ芸人で「私はモテています、リア充です」という発言をする人はほとんどいません。実際の生活がどうかは問題ではないのです。彼女たちはお笑いのプロですから、テレビというショーで、女子アナなどモテる人をやっかんで面白いトークを見せるのがお仕事です。

 下に見られているオンナ芸人がかわいそうと思う人もいるかもしれませんが、1分1秒でもテレビに出て名前を売るのが芸能人の仕事だと仮定すると、ある程度、過激にかみついたほうがテレビ画面に映る確率は上がります。女子アナよりも、かみついた芸人側のほうが多く映っていることはよくありますから、まったく損はしていません。

 しかし、視聴者にはそのあたりのからくりが伝わらず、特に女性には「女子アナなどキレいな人は、そうでない人より価値がある、キレいでないと不利益をこうむる」といった刷り込みがなされていきます。

 こういったバラエティーの仕組みを「真実」だと信じてしまうと、無意識に「こういう職業の人は、こうふるまうべき」という具合に、バラエティー界の序列で人をジャッジするようになります。吉田サンをイタいと叩く人は、バラエティーの世界で主流派といえない職種の彼女を、当初はちょっと見下しつつも好感を抱いていたのに、いつの間にかキレい職の女性陣と同じようなファッションとメイクで、タレントとしてテレビに出ているのが「アスリートらしくない」ので、気に入らないのではないでしょうか。

 容姿で女性を差別するというと男性のする行為だと思われがちですが、女性が女性を容姿で差別していることもあるのです。差別している側が無自覚だからこそ、ヤバい問題です。

 今のバラエティーで、女性というジャンルはコンテンツの一種でもあります。以前と比べるとだいぶ少なくなりましたが、結婚できないと言って笑い、こんなオンナが嫌いと叩く番組もあります。現段階で、アスリートとしての吉田サンに敬意を払うようなバラエティー番組はなく、おそらく今後も、結婚願望が強いとかイケメン好きとか女子力とか、そういう切り口でしか吉田サンは扱われないでしょう。

 世界の頂点を極めた吉田サンがバラエティー界に入ることは、結果的に「金メダリストと言えども、“キレい職”でなければ軽んじられる」という価値観を視聴者に植え付けることつながりますし、何より吉田サンにとっていいことなのか疑問です。

 ここは元祖アスリートヤバ女と言われたリョウコに、今後の身のふり方を相談したらいかがでしょうか。バッシングも何のその、人気の野球選手と結婚し、結婚披露宴をテレビで中継させるという往年のスター的人生を歩んできたリョウコなら、いい知恵を授けてくれるかもしれません。


プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。