ただ、「ポツンと一軒家」はドキュメントを重視したバラエティーで、「イッテQ!」はバラエティーを重視したドキュメントという違いがあるだけで、「どちらが優れている」という差はありません。多様性が必要なテレビ業界にとっては、「タイプの異なる2つの番組が同じ時間帯に放送され、視聴者に選択肢を提供できている」という望ましい状況と言えるのです。

視聴者にとっての太陽と言える番組

 このところ、高齢者自身の事故や事件、あるいは高齢者施設での殺人事件などが相次いで報じられました。高齢者をめぐる報道がダークなものに偏りがちな中、「ポツンと一軒家」の存在は希望の光にも見えます。高齢者の社会参加や活躍が求められている背景もあるだけに、同番組での生き生きとした姿は1つのモデルになるのではないでしょうか。

 振り返れば2010年代は、民放各局が「イッテQ!」と大河ドラマに対抗すべく、さまざまな新番組を仕掛けてきましたが、「まったく歯が立たずに打ち切り」という顛末を繰り返してきました。その点、世帯視聴率という1つの数値にすぎませんが、両番組を上回ったのが「ポツンと一軒家」だったことが示唆に富んでいるのです。

「思う存分笑わせる(イッテQ!)」や「壮大な物語(大河ドラマ)」に対する、「考えさせて癒やす(ポツンと一軒家)」という図式は、まさに北風と太陽。少なくとも現時点での視聴者は、太陽のような番組を望んでいる人が多いのでしょう。

 一部で「ポツンと一軒家が尽きるまでの命」「焼畑農業のようなもので先はない」と同番組を揶揄する声がありますが、毎週2人ずつ年間50週放送したとしても100人にすぎず、今後数年間は心配ないような気がします。

 取材の労力はさておき、「スタッフが行う国内ロケのみ」「スタジオのタレントも4人程度」のローコストという長所もあり、しばらくは日曜夜の看板番組として放送され続けるでしょう。


木村 隆志(きむら たかし)◎コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。