仙台市・八木山橋
投身自殺多発スポットで視線を感じ……
「え、あそこに行くんですか? しかもひとりで……」
怪談師の牛抱せん夏が「本当にヤバい」と呟いたのは、仙台市にある八木山橋。全国的に飛び降り自殺が多発するスポットとして有名で、これまでに100人以上が身を投げているという。仙台市在住のテレビ局プロデューサーも、
「深夜、この橋を通ると自殺防止のフェンスにしがみつく手が見えるとか、呼ばれるようにして飛び込んでしまうとか、そんな噂を聞いています」
と話す。そんな場所にひとり向かった週刊女性記者。近くには仙台城跡や動物園、遊園地といった観光客が集まるスポットがあり、昼間は賑わいを見せている。しかし日が落ち、夜の帳が迫ってくるにつれ、車の往来も減……らない!? さすがに歩行者は記者以外いないが、バイパスになっているのだろうか、かなりの車が橋を通り過ぎていく。
21時、22時……。この時間になりようやくエンジン音が響く時間は短くなり、自分の足音のみが耳に残る。橋の両端は道路灯が照らしているが中央は暗闇の中。橋の欄干には2メートルはある忍び返しのフェンスがそびえ、その先には有刺鉄線が張られている。
橋の真ん中あたりまで歩き、深さが70メートルあるという竜の口渓谷を覗いてみるが、かすかに水の流れる音が聞こえるだけで渓谷は闇に隠れている。高くそびえ立つフェンスを上り、ここから身を投げるとは……、と考えていると、車が1台近づいてきた。
記者の手前で減速し、車の中から記者に視線を向けながら、加速していく。夜中の自殺多発スポットに、ひとりで橋の下を覗いている人を見れば、誰でも“あれ?”と思うだろう。車が通り過ぎ、暗闇が戻ってきたとき、ちょっとした違和感に気がついた。
ひとりで歩いている記者の2~3メートル後ろから、誰かの視線を感じるのだ。もちろん振り返っても誰もいない。しかし、背後に誰かがいる気配がずっと続く。気味が悪くなり、早足で渡りきったときにはその気配は消えていた。一体なんだったのだろう、と視線を上げたその先に浮かんだ1枚の看板──。
『熊出没注意』
わけのわからない気配以上に、熊に襲われるかもしれないという現実を知り、さっさと橋を後にした記者。別の意味で命の危険を感じたが、暗闇の中で感じたあの視線を忘れることができない──。
《PROFILE》
松原タニシ ◎まつばら・たにし いわくつきの物件に渡り住み、日常で起こる心霊現象などを検証し、その体験を語っている“事故物件住みます芸人”。著書『異界探訪記 恐い旅』(二見書房刊)が発売中