では、ここからはお2人による“最恐の”怪談をお楽しみいただきたい。まずは、牛抱さんによる、ブラック企業が生んだ怖すぎる話──。
“ガリガリガリガリ”
このお話は某大手電機メーカーで、システムエンジニアとして働いていた津山さん(仮名)という女性が、実際に体験したお話です。
同僚のひとりに、坂田さん(仮名)という男性がいました。常に時間に追われ、ピリピリとした職場にあって、嫌な顔を見せずに「手伝いますよ」と言ってくれる坂田さんは、チームの中でも頼りになる存在だったそうです。
「これもお願いしてもいいかな」。優しく、人当たりのいい坂田さんに、津山さんたちは甘え始め、彼の仕事量がどんどん増えていきました。
それでも坂田さんは「大丈夫です」と笑い、誰よりも早く出社し、誰よりも残業して、身を粉にして働いていたといいます。
ある日、キーボードを打つ音に混じって、
“ガリガリガリガリ”
という妙な音がフロアに響いていることに、津山さんたちは気がつきました。
音のするほうに目を向けると、白いノートに赤いペンでひたすら三角形をガリガリと書き続けている異様な坂田さんの姿があったそうです。
ヤバい。そう思うと同時に、自分たちが甘えていたことを痛感した津山さんたちは、課長の許可を取り、坂田さんに休むように提案しました。ところが彼は笑いながら頑として拒み続けたそうです。
数日がたったある日、津山さんたちは異臭を感じ取ります。においの先は、坂田さん。誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰っていたと思われていた坂田さんは、なんと家に帰らず、フロアでずっと仕事をし続けていたのです。
「坂田を帰らせろ!」
事態を重く見た課長は、坂田さんの母親に事情を説明し、強制的に自宅静養を命じました。翌日から毎日、坂田さんは出社時間になると、
「本当に申し訳ございません。明日は必ず行きますので」
と律義に電話をかけてきたといいます。ときには会社近くまで来ていたらしく、コンビニで彼を見かけた同僚もいました。
「まじめすぎますよ。今はゆっくり休んでください」