自分たちが話していたのは?
電話や直接会うたびに同僚たちが伝えるようになってから1週間後、坂田さんの母親が突然、職場に来て荷物整理を始めたそうです。
「退職なさるのですか?」
津山さんがそう尋ねると、母親はキッとにらみつけ、
「息子は死にました」
そして、堰を切ったように、「あなたたちと仕事に殺されたようなもの!」と叫び始めました。母親が連れて帰ったその日の夕方、首にボールペンを何度も突き刺して自殺した─というのです。
「そんなバカな……」
警察で司法解剖に回され、母親が来社した日が彼の通夜だったそうです。職場を代表して課長が出席し、坂田さんが確かに亡くなっていたとの報告を受けた津山さんたち。じゃあ、私たちと話していたのは……と全員が顔を見合わせた、そのとき、
プルルルル──。
静寂を破る電話の音。
「明日は必ず行きますので」
間違いない、坂田さんの声でした。津山さんは愕然とし、思わず受話器を落としてしまいました。すると、フロアの前にあるエレベーターがスーッと開くと、そこには坂田さんの姿が。
「今日はすいませんでした。明日は必ず行きますので……ブツブツ」
フロアを徘徊し、自分の席についた彼。その光景を見た津山さんたちは……、なんと「疲れているんだ」と自分に言い聞かせ、仕事を再開したというのです。
斜め前の席で、ブツブツ言い続けている坂田さんと、ふとした瞬間に目が合った津山さん。そのとき─。
「明日も必ず行きますので」
と笑うと、彼はすぅーっと消えてしまったそうです。