「数字やデータはありませんから」
帽子店の男性は、ここ2~3週間は姿を現していないという。商店街にある帽子店も何度か訪ねたが、ずっと閉まったまま。都内にある同名の帽子店を訪ねると、社長が対応してくれた。
─街頭インタビューを受けた男性はいますか?
「辞めちゃったんですよ。巣鴨の店舗はフランチャイズ契約だったんです。彼は家賃もロイヤリティーも全部払えず、現在は連絡がとれない状況。店舗名を貸していただけなんですよ」
─街頭インタビューのことは知っていますか?
「巣鴨の商店街に住んでいる知人からうかがいました。(インタビューを受けた男性は)変わった人なんですよ。頑固で言うことを聞かないし、商品の扱いも雑ですし……。どこだろうが被害はあるわけですよね。商店街あっての商売なので、万引きが多いということを口にすることで悪影響があると思うんです。もう少し考えて発言するべきだったんじゃないかなと。7月末ぐらいに契約解除しました」
テレビで証言した男性には話を聞くことができない。テレビ東京に、今回の経緯について問い合わせると、メールで回答があった。
《放送の経緯について商店街様からお問い合わせがございましたので、番組担当者がご説明書をお持ちしました。社長名義で文書を出した事実はございません》
そこで商店街の広報窓口にも問い合わせることに。
『巣鴨地蔵通り商店街振興組合』の広報渉外担当理事である木崎禎一さんに、番組の影響について話を聞いた。
「近隣にお住まいの方から、いろいろなお問い合わせをいただきました。それでテレビ局に質問させていただいたのは事実です。番組でお話しされた男性の店は商店街の組合に加盟していないので、私ども商店街として事情は把握していません。テレビ局の担当者から取材の経緯をご説明いただきましたところ、インタビューをした場所は巣鴨ではなかったが、男性が店舗を経営していることは十分に確認を行ったということでした」
御徒町でのインタビューだったが、後に巣鴨の店舗は確認したということらしい。
「万引きについては、明確なデータや根拠はないと話していました。ただ、番組の趣旨があくまでも“個人の感想”を中心に構成しているものだとも。今後は不快な気分にさせたり、間違って受け取られないような番組作りをしていきますというご説明をいただきました」(木崎さん、以下同)
社長名義の謝罪文は受け取っておらず、地方で放送しないという約束もないという。
「こちらから特に何か要求したり、抗議をしたということはありません。テレビ局には迅速で適切な対処をしていただいたと思っています」
警視庁の'14年から'18年の統計では、巣鴨署管内で万引きを含む非侵入窃盗の認知件数は年々、減少傾向にある。ほかの地域と比べ、巣鴨で万引きが多発していることを示すデータもない。
放送された内容によって、深刻な汚名を着せられる可能性もある。木崎さんは、
「男性はご自分の見解を述べたと思うのですが、巣鴨の地域住民と限定して話していますよね。男性の店でそういう被害があったのかもしれませんが、実際に万引きをしたのがこの地域の人なのかというのは、私個人としては疑問に感じました。そういった数字やデータが放送されれば納得しますが、出ていませんから」
また謝罪文を受け取ったと話した人についてはどうか。
「私がテレビ局と終始やりとりをしていました。自治会にも説明をさせていただきましたが、私の説明が至らず誤解を招き、間違って伝わってしまったのかもしれません」
“万引き商店街”“ロクな年寄りはいない”といった証言は衝撃的だったが、事実確認を怠っていたとは。これでは“ありえへん”番組づくりと言われても仕方がない!