こうした事態に、国はどういう対策を考えているのだろうか。

年金の所得代替率が落ちていくのを防ぐ手立てとして、いろいろ考えてはいるようです。まず、厚生年金の適用拡大。パートで働く人は、いま501名以上の会社なら週20時間・年収106万円以上働くと社会保険に加入することになっています。それを中小企業にも適用していこうと考えています。そうすると、パートさんも厚生年金や健康保険に入れるメリットはあるけど、手取りが15パーセント弱減っちゃう。

 中小企業も、厚生年金と健康保険の保険料を半分負担しなくてはならない。今までは月給15万円で社会保険料の負担なしで働いてもらえていたのが、適用になるとパートさんは15万から社会保険料が2万2000円天引きされるし、会社も同額負担しなきゃならなくなる。年金は増えるけれど目の前の生活や経営が苦しくなります」

 対策は、ほかにもある。

「国民年金の加入期間を65歳、厚生年金の加入期間も75歳までに引き上げるという案も出ています。それから、年金の受給開始を遅らせると年金額が増える『繰り下げ受給』も、いまは70歳まで遅らせることができるのを、75歳まで可能にするという案もあります。いずれも年金額を増やす効果があります。

 さらに、働きながら年金をもらうと年金が減らされる『在職老齢年金制度』を廃止して、なるべく長く、できれば70歳までしっかりと働いてほしいという案も出ています。こうした案が、今年か来年には法改正で実現していくでしょう。これはまだ先の話でしょうが、国としては、いずれは定年じたいを65歳にして、支給開始年齢そのものを70歳に引き上げたいのでしょうね

 こうした状況のなか、私たちはどうやって老後資金を確保していけばいいのだろうか。

年金生活が近い55歳以上の人は、未納期間があるなどして、老齢基礎年金を満額もらえない人が多い。その場合は、60歳以降に国民年金に任意加入して国民年金保険料を納め、満額もらえるようにしましょう。また、パートで働く際も、厚生年金の加入基準を満たすようにする。老齢基礎年金プラス老齢厚生年金をもらえるようになるので、もうすぐ年金生活が近いという人にはおすすめです」

 国としてはどのような改革が求められているのか? 伊藤教授が指摘する。

「国民年金保険料の滞納者や免除者が増え、将来的に無年金・低年金者となる可能性が高い。もはや国民年金を社会保険方式でまかなうやり方には限界があります。国民年金は全額を税方式にして(現在も2分の1は税)『最低保障年金』とすべき。その財源は消費税ではなく所得税や法人税などを充てたほうがいい。

 また現在、年金の給付費は年間で56兆円程度かかっています。一方、年金積立金は150兆円を超え、積立金から年間で支払われる額の2・5倍にあたります。日本では'04年から100年かけて、積立金を少しずつ取り崩す計画を実行してきましたが、これほど巨額の積立金を保持する必要があるのか。

 諸外国の年金積立金をみると、年金として支払われる額の1年分が通常。同様に給付1年分だけを残して年間10万円ずつ、10年かけて取り崩し、国民年金の支給額に上乗せする。それだけで低年金受給者の暮らしは改善へ向かうはずです」

年金いくらもらえるの? 最新シミュレーション

 参院選を控えていたことから発表が遅れたと噂される年金財政検証。その結果、待ち受けているのはブラック老後と判明! 65歳のとき、年金は月にいくらもらえるのか。夫婦2人世帯と40代非正規の「中年フリーター」について現在価値に置き換えて北村さんに試算してもらった。

【夫・会社員/妻・専業主婦の場合】
・10年後……夫13.8万円、妻5.9万円
・20年後……夫11.6万円、妻5.1万円
・30年後……夫10.6万円、妻4.6万円

【夫、妻ともに自営業の場合】
・10年後……夫、妻それぞれ5.9万円
・20年後……夫、妻それぞれ5.1万円
・30年後……夫、妻それぞれ4.6万円

【単身の中年フリーターの場合】
・10年後……なし
・20年後……厚生年金加入者6.7万円、国民年金のみだと4.7万円
・30年後……厚生年金加入者6.1万円、国民年金のみだと4.3万円

※試算の条件:年金財政検証のケース3の所得代替率に基づく。経済成長率0.4%。中年フリーターは単身者、月収14・5万円、23歳就職・60歳定年、国民年金のみの場合は23歳~60歳まで保険料納付。