前列左からメイコさん、善之介、善行。後列左からはづき、カンナ
前列左からメイコさん、善之介、善行。後列左からはづき、カンナ
【写真】家族の集合写真にほっこり。デビュー当時(2歳8か月)の秘蔵写真も!

 映画の台本など、捨てたら2度と手に入らないであろうものも未練なく。

「私、思い出のものを手にしながら“あのシーン、うまくできたかしら?”とか全然、振り返らないの。そんなこと考えていたら前に進めないでしょ?」

 そんなメイコさんでも、捨てるのに躊躇したものがあったという。

「やっぱり親友のひばりさんにまつわるもの。おそろいの着物とかね。最後の最後まで捨てられなかったけれど、しかたないの。人間ってね、しかたがないことばかりに向き合って暮らしているの。

 例えば、今晩のおかずににんじんを切ることだってそう。みずみずしく、きれいに茂った葉っぱを勢いよくザクッと切る。すごく残酷なことでしょう? 自分の生活は、たとえ残酷でもバン! と切っていかないと、とめどなく膨らむばかりになってしまうから

 世は『ヤフオク!』や『メルカリ』などネットでの個人間売買が盛況だが、微塵も考えなかったという。

「それをしたら、(ひばりさんとの)友情を裏切ることになるから」

最期は病院で迎えたい

 10週をかけ、メイコさんのお片づけは完了。

神津善行と交際中だった昭和30年ごろに発売されていたプロマイド
神津善行と交際中だった昭和30年ごろに発売されていたプロマイド

ガランとした部屋に立ち、“ああ、これでいつでも死ねるな”と思ったときのすがすがしさ、気持ちのよさったら! これは、神様がくれたいちばんのプレゼントだと思ったの。ものを手放すことで、私はすがすがしさを手に入れたんだと思うわ。

 女の人って、どうしても思い出にがんじがらめになるもの。“これは息子が初月給で買ってくれたものだから”とか。でも人生って、年齢に合わせてそぎ落とさないと前に進まない。私、このごろしみじみと思いますよ」

 現在は4LDKのマンション暮らし。とても居心地がよく、快適だと微笑む。

でも私、最期は自宅じゃなく、病院で迎えたいの。だって、死ぬときのセットとして、いちばん似合うじゃない? 女優が死を演じるかのように旅立ちたい。生活感ある日常の中に、看護師さんがウロウロするような非日常が持ち込まれたら、家族はつらいでしょうからね。セットのような病室で、悲壮感なく、周りに迷惑をかけずに臨終を迎えたいわ。それが私の今の夢かしら?」

 死ぬまで女優とはこういうことか─。


《PROFILE》
なかむらめいこ。女優。2歳8か月で『江戸っ子健ちゃん』(1937年)で銀幕デビュー。以来、映画、テレビ、舞台などで活躍。