流通する商品が“中高年向け”だから

 衝撃的だったのは、NTTドコモのCMで高畑充希が見せた驚異の歌唱力だ。

'88年にリリースされたX JAPANの『紅』を、アップで熱唱。全身全霊で歌う高畑さんの鬼気迫る表情が話題になりましたね。

 このCMには、メンバーのYOSHIKIさんもSNSですぐさま反応していましたよ」(前出・スポーツ紙記者)

 マーケティングアナリストの原田曜平氏は、CMで懐メロが使われるようになった背景には、日本の人口構成が関係していると指摘する。

そもそも、テレビのCMで紹介される商品は、日本の人口構成上、若者に向けたものが少ないのが特徴です。お金を持っておらず、人口も少ない若者に向けて宣伝するのは難しいですからね。世の中に流通する商品は中高年向けが主流になっていますから、当然、CMもそうした世代の人に向けたものが中心になります

 CMで流す曲を選んでクライアント(広告主)に提案するのは、広告会社のクリエイターだが、そうした制作側の事情も影響しているという。

最終的に内容を決定する権限を持っている人は40代が多く、彼らが思春期に聴いた曲を選ぶ傾向にあります。そうした世代の人が知らない新しい曲で流行を作り出していくことが理想的なのですが、人口の大半を占める中高年向けの曲を流すほうが視聴者がノスタルジーを感じやすいんです」(原田氏)

 最近の'90年代ブームもこの傾向を後押しする。

平野ノラさんのバブルネタが人気になり、荻野目洋子さんの『ダンシング・ヒーロー』が大ヒットしました。また、紅いリップやワンレングスが人気になるなど、音楽やファッションで、バブル世代に流行ったものが注目される傾向にあります」(原田氏)

 メディア文化論が専門の法政大学教授の稲増龍夫氏は、団塊ジュニア世代が懐メロに関係していると話す。

'90年代はCDのミリオンヒットが続出しました。当時の団塊ジュニア世代は、可処分所得が多く、音楽に関心の高い人が非常に多かった。そうした世代がいま40~50代になり、総人口の中でのボリュームを圧倒的に占めるようになりました。そこをターゲットにすれば、商品が売れる可能性が高くなります

 音楽の聴き方が多様化し、10年以上前の曲でも若い人に広く認知されるようになったことも大きい。

'80年代から'90年代にかけては次々に新しい音楽が生まれて、みんなが流行に乗っていきました。しかし、'00年代に入ってからはカラオケが一般化し、インターネットが広く普及したことで、古い曲を聴く機会が増加。最近は若い世代が10年以上前の曲にも自然に接することができるようになりました。'00年代以降はモーニング娘。に代表されるハロープロジェクトやAKB48グループなどのアイドルも出ましたが、新しい音楽が爆発的なブームを作りだすケースは少なかった。

 現在、日本の人口でいちばん大きい世代が団塊ジュニアですから、彼ら世代の曲が使われる傾向は今後も変わらないでしょう」(稲増氏)

 これから、CMでどんな懐メロが流れるのかますます目が離せない!