「長さ以外にも注意点があります。寄付をする際、髪を切る前にシャンプーしないようにしてください。洗ってから切ると、残った湿気で髪がカビてしまうからです」
髪の切り方も「細かい束に分けてゴムできつく結んでから切る」などの必要な手順があるので、寄付先のサイトの説明をしっかり読んでからカット&送付するよう注意したい。
ちなみに、31センチの長さで切っても、その中には短い毛がたくさん交ざっている。寄付した髪の毛すべてがウイッグに使えるわけではないのだ。
「そのため、ひとつの医療用ウイッグを作るために30~50人分の髪の毛が必要なのです」
ウイッグに使えると判断された髪の毛は、表面や質感を整えるトリートメント処理加工が施される。そして、受け取る子どもの頭の型をとったあと、ウイッグとして仕上げられる。
「ウイッグは、提携先のアデランス・タイ工場の職人が髪の毛を1本1本、手植えして作るため、完成まで1年近くかかるんですよ」
ウィッグをつけずにすむ世の中に
ジャーダックが設立され、活動が軌道に乗るまでにはいくつかの幸運な出会いがあった。
「最初は、髪の毛もなかなか集まらないし、ウイッグを受け取る子どもも見つかりませんでした。最初のウイッグ提供までに2年半の月日が必要だったほどです。でも、芸能人の方々がヘアドネーションに取り組み、その様子をSNSで発信してくれたおかげで、多くの方に活動が知られるようになりました。寄付もウイッグを受け取る子どもも3倍に増えたんですよ」
また、たくさんの媒体からの取材を受けたことも転機となった。取材をきっかけにウイッグ製造大手のアデランスと縁が生まれ、全国の拠点を頭の計測のために借りることが可能に。ウイッグ作りにも協力してもらえるようになり、提供できる数は大幅に増えた。
ジャーダックが無償提供した医療用ウイッグは、今年10月末時点で累計398個になった。
ただ、渡辺さんにとって、ウイッグを数多く届けることがゴールではない。
「どんなに質のいいウイッグでも、夏は暑いといった不自由や、“人前で脱げたらどうしよう”という不安を消すことはできません。この活動を通じて、みんなの意識が変わり、ネイルのようにウイッグを前向きに楽しめる、あるいはそもそもウイッグをつけなくてもいやな思いをせずにすむ、そんな世の中に変えていけたらと願っています」