《出所したはいいけど仕事も地位も全てを失って途方に暮れていた頃から1年4か月。地道にコツコツと歩んできて、ついにその宝物である志村さんから声をかけて頂けるところまで来たというのは本当に万感の思いだった》

 と、ブログに書いた。

 が、翌年、今度はコカインで逮捕薬物がらみでは3度目)され、その後、両者の交流エピソードは伝わってきていない。

志村けんがコメントしない理由は

 こうした経緯を見たうえで、志村を冷たいと感じる人は少ないだろう。実は彼自身、こういう過ちに二度目があってはならないことを肝に銘じている。最初の全盛期を迎えていた81年、競馬のノミ行為で書類送検され、1か月謹慎した過去がある。当時『8時だョ!全員集合』(TBS系)は子どもたちに絶大な人気を誇っていたから、世間の激しい批判にさらされたものだ。

 それ以降、志村に大きな不祥事はない。

 女性がらみでは、3年以上同棲した女性と別れる際「内縁関係」とみなされて財産を半分持っていかれたことを告白している。それ以降、同棲は「3年ごとに」と決め、下半身のスキャンダルを免れてきた。

 このように、危機を回避するための学習能力があるおかげで、40年以上もトップの座に君臨していられるのだ。「バカ殿」どころか「名君」といえる。

 一方、田代は売れっ子になっても驕(おご)ることなく、誰に対しても腰が低かったという。では、なぜ志村を裏切るようなことをしてしまったのだろうか。実は今回、冒頭で触れた替え歌をイベントで披露したあとにも、こんな趣旨の発言を付け加えたりしている。

「反省してないわけじゃないですよ。みなさんを笑わせるために無理してやってるんですから」

 無理して笑いをとらなくても、地道に回復への努力を続けていればよかったのでは……という気がしてしまうが、志村ほど芸にも人生にも自信を持てない田代はとにかく笑わせることで誰かに認めてもらいたい気持ちが強かったのかもしれない。そこに芸人、さらには人間としての業(ごう)があるのだろう。芸と人生をそれなりに区別することができ、失敗を繰り返さない志村には、そんな田代の哀しい本質も見えているはずだ。

 バカ殿ではない志村には“沈黙は金”に徹して、見守るしかないのである。

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。