なんで俺、イヤだったんだろう
岩井さんは小学生のときに水彩画を習い、高校では選択科目で油絵を専攻。エッセイに添えられているイラストはすべて岩井さんの自作だ。
「絵を習っていた経験がありますし、人より多少は描けるとは思います。でも、今回のイラストには苦労しました。
イメージは、“美大でしっかり絵を勉強したような本当にうまい人がササッと描いた風のイラスト”なのですが、実は何回も描き直したりしているんです。エッセイの連載を始めてうまくなったのは、文章じゃなくて絵ですね(笑)」
岩井さんのエッセイでは、しばしば日常で直面するモヤモヤとした感情を掘り下げて分析している。
「『なんかイヤだなぁ』って思う瞬間って誰でもあると思うんです。僕は日ごろからそれを言語化しようと意識していて、『なんで俺、イヤだったんだろう?』『なんでストレスがたまってるんだろう?』って掘り下げて考えて解決するようにしています。
そこで解決しなかったものはだいたい忘れますね。だから僕、ストレスがたまらないんです」
本書には、ひとり暮らしの様子や仕事先での出来事、同窓会や葬儀といったプライベートの風景などを綴ったエッセイが収録されており、読み進めるうちに岩井さんの人柄や普段の様子が透けて見えてくる。
例えば、母親との仲睦まじい様子もそのひとつだろう。本書では、朝起きると枕元にその日の仕事用の衣装がたたんで置かれていた実家暮らしの思い出や、母親とムンク展に出かけたことなどが記されている。
「飯を食いに行ったり美術展を見に行ったりと普通に母親と出かけますし、マザコンだと思います。母親から誘われることのほうが多いのですが、まぁ、友達みたいな感覚ですね」
息子と友達のように付き合えるお母様とは、一体、どんな人物なのだろうか。
「うちの両親はふたりとも元ヤンキーなんです。母親の若いころの写真は、濃いめのメイクに豆絞りを巻いて祭りの衣装を着たものとか、やんちゃなものが多いです。
子どものころは怒られるときにぶん殴られたりもしましたけど(苦笑)。基本的には明るくさっぱりしている母親です」