そして男性アイドルでいえば、日本国内でトップのCD売上を誇るジャニーズ事務所のアイドルたちが、これまでデジタルフル音源の販売や、Youtubeでのミュージックビデオ配信をほとんど行ってこなかったという事実がある。
気になった音楽があれば、その場で調べて気軽に楽しむ。そんなスマホのある生活と完全に結びついた世の関心は、大手で有名であるほどCDの世界に閉じこもりがちだったアイドルからはどんどん遠ざかっていった。その結果「日本アイドルシーンの閉塞化」がいよいよ極まってきてしまったのだ。
しかし、ここでついに嵐が動いたのである。いや、これまで頑(かたく)なにネット進出をしてこなかった所属事務所のマネジメント方針を思えば、「やっと動くことができた」と言ったほうが正しいのかもしれない。
活動休止直前のアイドルによる挑戦と願い
11月3日に始まった嵐のデジタル配信解禁は、もちろん過去作の再評価や最新作のさらなる認知など、グループ自身に還元されるものもたくさんあるだろう。
しかしそれ以上に大きかったのは、この決断がトップアイドルグループの音楽作品をもう一度、日本の日常に結び付けていこうという、世間への「挑戦」そのものである、ということなのではないだろうか。
この先に見据えられているのはおそらく「世間と切り離されてしまったアイドルシーンの再集約」。そして、2020年末での活動休止もすでに公表している嵐の先導によって、アイドルが世間の関心と重なる大動脈がもう一度、確立できた場合そこには一体何が生まれるのか。
それはおそらく、2020年12月31日以降のアイドルシーンにおける「新たな国民的アイドルの誕生」。これまでのテレビ、CD、コンサートというルートだけでは決して生まれなかった、アイドルシーンの新しい未来、その可能性なのである。
《世界中に放て Turning up with the J-pop!》(嵐『Turning up』より)
あくまでも自分らしさ、日本のアイドルが歌い繋いできた“J-POP”のよさを貫いて、制作されたという彼らの初デジタルシングル『Turning up』。その“挑戦”の歌声を聴いていると、同時代に生まれ育ってきた、いちアイドルファンとしても大きなエールと感謝の言葉を送りたくなる。
乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版しているほか、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181