女性は人生に3度、うつ病の危険が
うつ病の患者数は、女性が男性の2倍、という事実を教えてくれたのは、日本女性心身医学会理事で産婦人科医の甲村弘子先生。女性の健康を心身医学的な視点からサポートすることを信条としている。
「女性は一生を通じて女性ホルモンに左右されるうえ、人生のステージの変化が大きい。20歳前後の若年期、出産後、そして閉経をはさんだ更年期と、女性は一生のうちで3回、うつ病になりやすい時期があります」(甲村先生・以下同)
20歳前後は将来に対する不安感があり、自立の時期で環境も激変する時期。産後はホルモン変動が激しく、子育ての不安や負担というメンタル面での負荷も高い。そして閉経をはさんだ前後10年の更年期も、女性ホルモンの減少と生活環境の変化により、心身の不調を起こしやすいのだ。
「更年期のうつ病に関しては、もともと持っている気質(素因)、女性ホルモンの影響、周りを取り巻く環境、この3つの状況が大きく関わり合っています。誰もがということではありませんが、3つの要因が重なってしまうと、うつ状態になりやすいと言えます」
女性のうつには女性ホルモンの影響が大きいので、婦人科の治療で効果が期待できるケースは多い。
「本当に重篤な精神疾患が疑われる場合は精神科に紹介しますが、心身医学的な対応と適切な治療で、ずいぶんとよくなります。『必ずもとの自分に戻れますよ』と言うと、みなさん本当にホッとされますね」
甲村先生が実践している心身医学的な対応とは、どのようなものなのだろう。
「まずは患者さんの話を聴く。これは『傾聴』というもので、『ふむふむ。なるほど』と相手の話に耳を傾ける。そして、決めつけたり、否定したりせず、まずは『そうですね。そのように感じているのですね』と、相手をあるがままに中立的立場で受け入れるのです(受容)。さらに、『頑張っているのに、うまくいかないのですね』などと、相手の立場に立って、相手の気持ちや感じ方に共感して理解することが大切です」
この後、診断にうつっていくわけだが、
「最後に要約と確認をします。『つまり○○ということですね』と、相手の話のポイントをまとめて返すのです。こうすることで、時間経過を持った患者自身の物語を、医師と患者が共有することになるのです」