自立しながら“ゆるく”つながりを持つことが大事
──そんなに海外は進んでいるのに、なぜ日本は対応できていないのでしょう?
岡本 「孤独=美徳」という文化が根強いこと、そして、逆説的に日本は孤独大国化しているからかもしれません。「孤独がデフォルトなんだから、それでいいでしょ」という同調圧力が蔓延(まんえん)していて……。でも、そのひずみは、そこかしこにあらわれている。
菅野 そういった人間心理もすごく理解できるのですが、孤独死の現場を目の当たりにしていると、もうそんな段階ではないような気がして、本当に危機感しかありません。特殊清掃業者さんもとてもこの現状を憂いていらっしゃって、「自分たちが活躍しない社会のほうが絶対にいい」と言う方が圧倒的に多いんですよ。
岡本 自立しながら誰とでもつながり続ければいいんだと思うんです。家族がなきゃとか、会社がなきゃとか思わずに、いろんな人に助けてねって言える状況にしておけばいい。
日本の社会は“すじこ”的つながりだと思う。イクラ同士ってべったりくっついてるけど、自立はしてないのね。誰かとつながっているけどたまたまつなげられていただけで、離れてしまうとイクラとしてすごく孤独なんですよ。でも、蜘蛛の巣みたいに人とつながっていれば、1本の糸が切れてもほかがある。糸は細くてもいいんですよ。細くても10本あれば強くなる。家族ほどの絆がなくても、スーパーやコンビニの店員さんとかでいいから、気軽にしゃべれればいい。お風呂屋さんに行って挨拶をするとか、そういうのが1日1回あれば、生きていける気がする。
菅野 ゆるいつながりでいいんですね。「絆を探さなきゃ」って思っちゃいますけど。そうではないということ。
岡本 自分の存在を認めてもらえるだけで変わると思います。昔はちょっとしたおしゃべりができる環境がいっぱいあったと思うんですよ。そういった当たり前にあった、ふれあい、支え合い、助け合いの風景が消え、「つながり格差」が生まれている。
──まずはひとりひとりが当事者意識をもって、日常の小さなつながりを大事にしていくことから始めたいですね。ありがとうございました。
<プロフィール>
岡本純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション・ストラテジスト。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリスト。グローバルの最先端ノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。これまでに1000人近い社長、企業幹部のコミュニケーションコーチングを手がけ、オジサン観察に励む。その経験をもとに、2018年『世界一孤独な日本のオジサン』(KADOKAWA)を出版。読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションズコンサルタントを経て、株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士、アメリカMIT(マサチューセッツ工科大学)比較メディア学客員研究員。
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)などがある。最新刊は『超孤独死社会 特殊清掃現場をたどる』(毎日新聞出版)。また、さまざまなウェブ媒体で、孤独死や男女の性にまつわる多数の記事を執筆している。
(取材・文/小新井知子)