食べれば食べるほど健康になるなんてありえない
「文化、政治、経済というものがお米を中心に回り始めた弥生時代は大転換期ですね。そしてお米を神聖なもの、特別なものとして位置づけ、『日本=お米の国』を作り上げることになりました。
また大正時代から日本の食が多様化するのですが、日本人はそれを上手に日常の食事に取り入れていったんですね。それはお米を炊いた『ごはん』と『お味噌汁』という枠組みが基本としてあって、さまざまな国の料理を『おかず』として取り込めたからなんです。
そのおかげで栄養のバランスもとりやすくなったのですが、1960年ごろからお肉などの動物性の食品をとる『食の欧米化』が始まり、これが今は行きすぎてしまって、現代型の病気が増えてしまったんです」
本書を読み進めていくと、時代によって米の種類や炊き方が変わったり、食事の回数が違っていたり、新たな病気が入ってきたりする中で、日本人の食と健康への意識が現代に近づくにつれ変わっていきます。
「昨今は健康情報があふれていて、患者さんから『この食材がいいと言っていたので毎日食べている』といったことをよくお聞きするんです。
しかし、どんな食品でも食べれば食べるほど健康になるなんてことはありえないですし、食べすぎれば身体に負担がかかって、余分な脂肪もつくし、全体の栄養のバランスも失ってしまいます。
たとえよいものであっても腹八分目に抑えましょうというのが大事なのですが、この考え方、少なくとも700年くらい前の室町時代には出てくるんですね。
日本では昔から一般の方の健康意識が全般に高く、文字を読むこともできたので、知識を持ってらした。そこへ医学の進歩が重なって、日本人の持っていた健康意識が底力となり、平均寿命がグッと延びたのだろうと思うんです。
最近、何が寿命を決めているのかという大規模な研究の発表があったのですが、それによると、遺伝で決まるのは16%だけなんだそうです。もうちょっと多いイメージがありましたよね?
つまり、基本的に寿命を決めるのは生活習慣であるということなんです。こうしたことに古代の日本人も気づいて、医学などが進んでいなかったぶん、食を通じて健康長寿を実現しようと、ひたむきに研究を重ね、日常の食事に取り入れて、和食が良いものになっていったということなんです」