本を読むのは大好きだった。生まれ持った鋭い感性が、読書によってさらに研ぎ澄まされたのかもしれない。高校卒業後は、クリエイターを育てる専門学校に進んだ。
「小説家になる夢を見て、書いたり読んだりしていました」
20歳で卒業、雑誌の編集やWEBデザインなどの仕事に就きたいと思い、就職活動もしたが、「覇気がない」「学歴がない」と言われて不合格になった。就職活動で大事なのは、見せかけでもいいので「明るく元気なこと」だ。面接官は深い内面など見ようとしない。私自身、就職活動をしたときに「暗い」と数社から落とされた。
「それに私、トランスジェンダーなんですよ。自分で気づいたのは10代後半になったころから。性別として、どうしても自分が男だと思えなかった。どちらかというと女性寄り。好きになるのは、男性でも女性でも魅力的なら性別にはこだわらないんですが……。外出するとトイレ問題で昔から困っていました。男性用に入ることに抵抗があって……。どうせ、あとでわかることだからと、就職活動では途中からカミングアウトするようにしたんです。そうしたらますます合格が遠のいたような気がします」
100社以上落ち、ひきこもり生活へ
就職できなかったことは、うさみんさんに少なからずダメージを与えた。しかたなくアルバイトをしながら小説を書いて応募する生活に入る。
「中学生のときファストフード店で、高校生のときはスーパーでアルバイトはしていました。でも専門学校を出てからは、ずっと出会い系のサクラをやっていました。人と関わるのがいやだったんです」
小説を書いて応募しても、なかなか最終審査まで残らない。焦燥感と無力感に苛(さいな)まれた。一方、「男」である自分に我慢がならなくなり、18歳から植物性のサプリメントを、20歳からは女性ホルモンを個人輸入して服用するようになった。徐々に体毛が薄くなり、髪はストレートになり、男としての性欲がなくなっていく。周りがどう見るかより、自分で自分を変えていきたかったのかもしれない。
うさみんさんが就職活動をした会社は100社以上に及んだ。だが結局は落ち続け、「自分はダメだ」という結論に達した。そして26歳のときにアルバイトも就職活動もやめて、ひきこもった。
「父からはときどき、“働きもしないで”と言われました。母親は何も言わないけど、味方になってくれるわけでもない。私にとって、子どものころから父はすぐに怒る怖い人、母はお酒を飲むと怖いし、なんだかやっかいな人というイメージなんですよね。親には甘えられなかった。物を買ってはくれたけど、一緒にどこかに行ったりスキンシップをしてもらったりした記憶がないんです」
だから小さいときから、ぬいぐるみが大好きだった。誕生日やクリスマスなどにはぬいぐるみを買ってもらっては、そのふわふわした感触に癒されたという。