証拠がないのに「不倫」と口外することも違法

 3つ目は「第三者への口外によって社会的な信用を貶(おとし)める行為」です。先の写真だけでなく、第三者に対して、離婚前に幹介氏と薫さんが肉体関係を結んだ証拠がないのに「不倫」だと口外することも違法なのです。なぜなら、本人の承諾なく個人情報を第三者に口外し、損害を与えることは名誉棄損に該当するからです。このように元妻は薫さんについて知り得た情報のうち、薫さんの社会的な信用を損なう内容について第三者へ口外した場合、名誉棄損罪(刑法230条、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)に抵触する可能性があります。

 最後、4つ目は「性的関係が記録されている写真を公開すると脅す行為」です。元妻は写真の非公開と引き換えに薫さんに慰謝料を払わせようとしましたが、例の写真を交渉材料として使うことは許されません。相手を脅すことで目的を実現しようとする行為は恐喝罪(刑法249条、10年以下の懲役)に該当する可能性があります。

 このように元妻の行為には罰金が伴う可能性がありますが、もし元妻が薫さんの忠告を無視し、これらの行為を本当に行った場合、薫さんには損害が発生します。そのため、元妻は罰金以外に損害賠償金を支払わなければなりません。

「不倫をするような女は何をされても文句を言えないはず」と元妻は本気で思っているかもしれませんが、それは元妻の個人的な意見にすぎません。それよりも法律の公式的な見解のほうが優先されるのは当然ですし、「家庭を壊された」「別れようとしない」「慰謝料を払わない」という理由での違法行為は許されません。

薫さんが元妻に注意喚起すると…

 薫さんは元妻を罰することを望んでいるわけではなく、上記の4点を含め、違法な行為を行わなければ、それで十分だと思っていました。これらのことを踏まえたうえで、「もうやめてください。そうすれば、こちらも何もしませんから」と元妻に釘を刺したのです。「何もしない」というのは過去のことを警察に相談したり、被害届を提出したり、損害賠償を請求したりしないという意味です。

 正直なところ、薫さんは今回の注意喚起によって元妻の嫌がらせがおさまるどころか、むしろエスカレートするのではないか、そうなった場合は本当に警察へ通報したり、弁護士に依頼したりしなければならない──と腹を括(くく)っていたようです。それから1年が経過しましたが、元妻から音沙汰はなく、嫌がらせの類は完全におさまったそうです。薫さんの心配は杞憂(きゆう)に終わり、胸をなでおろしたのです。

 もし元妻が違法だと知らず、その場の思いつきであのLINEのメッセージを送っていたのなら、薫さんの忠告を無視し、嫌がらせを続けたかもしれません。しかし、元妻は薫さんに指摘されなくても違法だとわかったうえで彼と別れさせ、慰謝料を取ろうとした確信犯だったのです。なぜなら、脅しめいたLINEのメッセージについては薫さんが既読にしたことを確認し次第、削除していたのだから。

 薫さんは元妻が削除する前にメッセージの画面を保存していたので、元妻が「そんなメッセージを送った覚えはない」と言いだしても通用しません。しかし元妻は、どこまでが許され、どこまでが許されないのか、最低限の分別はついていたはず。だからこそ、これ以上、嫌がらせを続けた場合、薫さんが「出るところに出る」ことを察して、嫌がらせだけでなく慰謝料の請求もあきらめたのでしょう。