黒澤明を意識したOP
鮮烈な衣装にも意図が
原点回帰を意識したという今回の大河。
「中島丈博さん、市川森一さん、ジェームス三木さんといった名だたる脚本家が大河ドラマを手がけていた時代の“群像”大河ドラマを、2020年に作りたいという思いもあって、池端さんに脚本をお願いしたという経緯があります」
クラシックかつ王道感のある演出は、どこか『独眼竜政宗』('87年)を彷彿(ほうふつ)とさせるオープニング映像などからも受け取れる。なんと、「黒澤明監督の戦国映画を意識した」というから驚きだ。
「王道の大河を表現するために、“ズンズン”と重低音で迫ってくるオープニング音楽にしたかった。また、スケールの大きいハリウッド映画のようなテイストも含ませたかったのです。作曲を担当するジョンは、歴史好きで日本史にもくわしいので適任でした」
『アバター』などの予告編音楽も手がけたジョン・グラムは、ハリウッドの第一線で活躍する現役バリバリの作曲家。彼が手がけた音楽に、たった12カット(!!)しかない映像、そして重厚感が漂う字体が重なることで、世界のクロサワのようなワクワクとゾクゾクが詰まったオープニングができあがった。
クロサワと言えば、本作で衣装を担当する黒澤和子さんは、黒澤明監督のご息女。時代考証に基づいているとはいえ、カラフルなデザインは、大河ドラマでは初となる4K放送に対応していることもあって、「目がチカチカする」など賛否を巻き起こしたのは記憶に新しい。
「まだ4Kで作り始めたばかりですから何が正しくて、何が正しくないのか、われわれも手探りなところがある」としながらも、鮮やかな衣装には次のような意味合いもあるとか。
「最初こそ合戦シーンなどロケが多いですが、6話目以降から屋内のセットシーンが増えていきます。建物自体は地味な色調ですから、主要登場人物が地味な衣装を着ていると誰が誰だかわからなくなるのではないかと(苦笑)。光秀は緑、信長は黄色という具合に、衣装で人物を識別しやすくするといった意図もあります」
2010年の大河ドラマ『龍馬伝』の放送当初も、「埃(ほこり)だらけで汚い」と論争を巻き起こした。しかし、フタを開ければ、その年の年間ドラマ視聴率1位(24・4%)を奪取。むしろ、ドラマの本筋とは関係ない箇所に焦点があたるというのは、それだけ関心度が高い証左ともいえる。
朝倉義景役のユースケ・サンタマリアをはじめ、『越前編』から登場するキャストも発表されたが、今後の見どころを挙げるとしたら何だろうか?
「ひとつだけ言えるのは、信長家臣団がチームワークを駆使して何かを切り開いていく……というような方向性ではなく、室町幕府の崩壊という点に大きなテーマが当たります」
池端さんは、室町時代の成り立ちを描いた『太平記』('91年)で脚本を務めた。『麒麟がくる』では、室町幕府のフィナーレに着目してほしいと語る。
「いつの時代もそうだと思うのですが、頭の固い前時代的な人がいて、そういった人間が旧態依然とした中で物事を決めていく。そこに気鋭の若者が現れて、古いシステムと戦い変えていく──。その急先鋒に光秀がいます。荒んだ世の中を終わりにしたいという思いは、足利将軍家も松永久秀も信長もみんな思っている。その群像の中で、光秀がどんな行動を取るのか、その姿をお楽しみいただけたら」
麒麟とは、王が仁のある政治を行うときに必ず現れるという聖なる獣。荒んだ世の中に、いかにして麒麟は現れるのか。今後もドラマから目が離せない!
(取材・文/我妻アヅ子)