言ってはいけなかった言葉
そんな状況であればこそ、いくらおしどり夫婦でも収入への文句や愚痴が出てしまったのかもしれない。
「うちに来院したり、相談の電話を入れたりする方も、不安に陥っていたり、いらいらしたりしている人が多い状況です」
そう病院での現状を説明するのは、東京・品川区の感染症専門医「KARADA内科クリニック」の佐藤昭裕院長。
「新型コロナの症状が出ていないのに疑ったり、違うと言っても納得しなかったりする人が増えています。
精神的に危ない状況、過敏になりすぎて妄想に陥っている人までいます。日本人はその程度の症状ですむことが多いですが、欧米ではDV(家庭内暴力)にまでなるケースも報告されています。なんとかこの事態を乗り越えないと、今回のような事件がまた起きてしまいます」
冒頭の碓井教授も同様の事件への懸念を示す。
「この夫婦だけの特殊な事件とは思えません。新型コロナの自粛生活が長引くなか、在宅時間が増えて、夫婦仲が悪くなったという話をよく聞きます。
赤の他人に言われて聞き流せることも、最も理解してもらいたいパートナーには言われたくないもの。仲のいい夫婦なら、なおさらです」
一方の妻の側も、いまはストレスがたまっていると碓井教授が続ける。
「ママ友とのおしゃべりや、女子会もできなくなっています。ストレスを抱えた者同士が自宅で長時間、一緒にいるうちに、ふだんならば決して口にしないひと言が出て、それがエスカレートしていったのではないでしょうか。
怒りの感情は、6秒待つと落ち着くと言われていますので、カッとなっても、グッとこらえて6秒数えましょう」
おしどり夫婦を襲った目に見えない敵であるコロナ。こうした事件が再び起こらないためにも、一刻も早い生活支援などの対策が求められる。
そして、「コロナのせいで自分の出勤回数や収入が減った」と、美紀さんが愚痴を漏らした後に思わず口にした言葉─。
「あなたの稼ぎが少ない!」
は、夫婦どちらも決して口にしてはいけない禁句だということを肝に銘じたい。
【識者PROFILE】
◎KARADA内科クリニック 佐藤昭裕院長
東京都品川区西五反田1-2-8 FUNDES五反田10階
電話……03-3495-0192