野生動物のエンタメ化、その是非
前出の徳山さんは、
「たとえ育児放棄された子であっても、エンターテインメントに使ってもいいということにはなりません。ちゃんと習性を考えて、チンパンジーとして育てるべきだったと思います。ほかの動物園では、そのように努力されています。昔は、母親に育児放棄されたチンパンジーが人工保育で育てられることはよくありました。しかし、ずっとヒトの手で育ったチンパンジーは、チンパンジー同士のコミュニケーションを学ぶことができず、チンパンジーの社会にうまく適応できないことがわかってきました。
また、人工保育で育ったメスは子育ての仕方を知らず、さらにその子どもも放棄されてしまうという問題もわかりました。そのため現在の動物園では、一度人工保育になったとしてもできるだけ早い時期に母親、もしくは群れに戻すようにしています。母親に赤ちゃんを抱かせてみて育児に慣らしてみたり、すでに母乳が出なくなっているようならばミルクだけ飼育員が手助けしたり、またはほかに子育てをしている母親がいたら一緒に育ててもらうようにしたり、ケースバイケースで試みが行われています」
松阪さんが論文を発表しているように、パンくんの扱いへの批判は以前からあったという。
「『志村どうぶつ園』やカドリー・ドミニオンによるパンくんたちへの扱いに対しては、類人猿の研究者や動物園関係者で構成される『SAGA(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)』などが、これまでにも批判の声明をくり返し出しています。
しかし、問題が解決せずに続いてきたのは、多くの視聴者が番組を支持してきたからでもあるでしょう。この先、この問題を改善できるかどうかは、視聴者の皆さん次第という部分もあると思います」(松阪さん)
「『志村どうぶつ園』だけでなく、CMなども含め全体としてチンパンジーやほかの野生動物のテレビなどのエンターテインメントでの利用は確実に減ってきています。私が危惧しているのは、志村さんの追悼企画で多くのパンくんの映像が流れ、そしてそれが感動を呼んで高い視聴率を得ることで、番組側が“やっぱりチンパンジーは視聴者に受ける”となって、パンくんの子どもであるプリンちゃんの出演が増えたり、パンくん同様の強いストレスがかかる企画を行うことです。
また、パンくんの映像が多く流れることで、“チンパンジーやほかの野生動物をエンターテインメントとして使ってもよい”という認識が広がることも危惧しています」(徳山さん)
2人の指摘について、放送元である日本テレビに、パンくんに対するナレーションなどの演出について、また今後もパンくんのような動物の扱い方を番組では続けていくつもりなのかの2点を問い合わせると、以下の返答があった。
「パンくん、プリンちゃんのコーナーは、 専門家の指導のもと、負担の無い内容で撮影してまいりました」(編成局宣伝部)
長らくテレビ業界では、「動物モノはウケがいい」と言われてきた。しかし、それを過度な演出で表現することは前時代的な感覚といえる。変わらなければいけないのは、テレビ業界はもちろんのこと、それを視聴者として楽しむ私たちなのかもしれない──。