もらい続けることもできただろうに(もったいない)、という声も多かったらしい。

アルバイトを始めたのはお金がないから。東京五輪の開催が危ぶまれ、試合どころか練習すら満足にできず、自分にどれくらいの価値があるのかも示せない。でも、今も夢を叶(かな)えるため、そしてフェンシングを続けていくために精一杯、もがいてはいる今後はそんな自分を買ってくれ、“等身大の君でいい”と応援してくれるスポンサーが新たに見つかったらうれしいな、という気持ちもある」という。

困っている選手が救われる社会に

 働き口にウーバーイーツを選んだのは「時間の自由が利くし、体力の低下を防ぎ、足腰を鍛えることにも繋がるから」。自転車を有酸素運動と捉えるのは、アスリートならではだと感じた。確かに新型コロナが拡大してから、黒字に緑色のロゴが入った大きなバッグを背負って、自転車で弁当を届けるウーバー配達員らの姿を以前より多く見かけるようになった。私も週に2回は利用している。昨今ではアルバイトの配達員が増えすぎて仕事の奪い合いになっており、1日にあまり多くは稼げない、という話をよく聞く。

 現在、三宅選手は週に3〜4日ほど配達員をしているという。剣を持って広い場所での練習ができないので、オンライン上でトレーナーから指示を受けながらの激しいトレーニングを週2回前後、行っており、その練習がない日には配達に出ているとのこと。

 三宅選手のもとにはSNSなどを通して、世界中の配達員たちから「俺もウーバーをやっている」という写真が届くという。一方で、「配送業をなめている」というメッセージがくることも。

 実際に配達をしても本人だとバレないのか聞いたところ「本名で登録し、顔写真も掲載していますが、まったく気づかれません。新型コロナの感染を防ぐために玄関先に置いておくケースも多いので、注文者とあまり顔も合わせないですし」ということだ。

 もしかして、あなたのお弁当を運ぶのが五輪選手かもしれないと思うとなんだか恐ろしい。

 三宅選手は「自分は今のところ、なんとか難を凌(しの)げているが、今後はアスリートにも“難民”が増えてくる可能性が高い」と危惧している。

「スポンサーは1年契約であることが多いです。東京五輪が開催されるかわからないままの状況では、今後、契約が打ち切りになる選手も出ることが予想されます。非常事態とはいえ、文化や芸能・スポーツに対する国からの支援は、十分ではないと感じます。

 自分は競技歴が25年と長いほうですが、このご時世ではもっと若手の選手を含め、アスリートが自分の力で稼げるようになるのも大切です。さらには日本オリンピック協会がファンドを作ってアスリートを支援するなど、スポーツ選手のセカンドキャリアがもっと考えられる社会になればうれしいです。

 でも、好きで(競技を)続けているので、ある程度の苦難は仕方がないかな、と思う面もあります。ただ、今回は自分だけが運よく救われそうですが、ほかにも困っている選手がたくさんいるので、少しでも待遇が改善されればと願っています

 人気のあるスポーツとないスポーツがあり、スポンサーがつきにくい競技があることは理解できる。しかし「アスリートファースト」を理由に延期したのだから、アスリートたちが少しでも安心できる環境を整えてもらえることを祈るばかりだ。メダリストがアルバイトで食いつなぐだなんて、やはり社会的な損失が大きいだろうし、現状に違和感を覚える。放映権などの利権争いや一部の人だけが儲かる五輪ビジネス。こんなご時世だからこそ、もっと選手のもとに還元される方策を考えたい。

(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)
※この記事は、私たかまつなな個人の発信です。所属する組織・勤務先とは一切関係ありません。問い合わせは、下記アドレスまでお願いします(infotaka7@gmail.com)


【PROFILE】
三宅諒(みやけ・りょう) ◎フェンシング選手。千葉県市川市出身、慶應義塾大学文学部卒。'07年 世界ジュニア・カデ選手権男子フルーレ優勝、'12年 ロンドンオリンピックフェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト。'14年 アジア大会男子フルーレ団体金メダリスト

【INFORMATION】
本件については、Youtube『たかまつななチャンネル』内の動画「なぜ、メダリストがウーバーイーツの配達員を?」でも話しています。
リンクURL→https://youtu.be/lGfM7PPIMs4