参拝前に手や口を清める手水舎。最近、ここに色とりどりの花を浮かべる“花手水”がSNSなどで話題となり、人気を集めている。
JR長岡京駅からシャトルバスで20分。『竹取物語』のモデルともいわれる竹林を抜けた先に『柳谷観音 楊谷寺』はある。祀られているのは、眼の観音様。地元では“やなぎださん”と親しまれ、あじさいの名所としても知られる。実は、このお寺が花手水ブームの火つけ役!
'17年、あじさいから
花手水は始まった
「ウチには龍手水、花手水、琴手水、苔手水という4つの手水舎があるんです」
とは、執事の日下恵さん。
「最初は、(手水舎の)花手水のあるお庭に新たにお花を植えようとしたんですが、京都府指定名所なので“江戸時代の景観を残さないといけない”と府からのOKが出なかったんです。ちょうどそのころ、誕生日にフラワーボックスをいただいて。“お花がぎゅっと詰まってるの、めっちゃかわいいな”と、お手水にお花を入れることを思いついたんです」
'17年6月、あじさいを浮かべてみたのが花手水の始まり。その後は水無月やコスモスなどを入れていた。秋を迎え、色づいた紅葉をグラデーションで浮かべたところ、ツイッターで10万いいね&4万リツイートを記録。
「それから、ウチの花手水にはできる限りお花を入れるように頑張っています。今や北海道から九州、台湾からも、お手水の花を目当てに来てくださるのに、それがなかったら申し訳ないので。でも、ないときもあるんです(笑)」
大きな龍手水にも花を入れるようになったのは、'18年のあじさいシーズンから。
「ウチでは年3回、新緑とあじさいと紅葉が美しい時期に“ウイーク”と銘打ち、普段は入れない上書院を限定公開しています(有料)。このウイーク期間中は、龍手水にもお花を入れています」
今年に限り、JR東海の協賛があり、4月から7月5日まで毎日ずっと龍の花手水が見られるという。
「厳密には、仏教でいう花手水とは、水が冷たい冬に、花についた水滴で手を洗い清める行為のこと。
でも手水舎に浮かべた花を、花手水と呼ぶのはぴったりだと思って、使い始めました。基本的には私が制作していますが、紅葉でハートを作るのは住職。これがなかなか難しくて。ほかのお寺さんからも“どうやったらきれいにハートが作れるの?”とよくお問い合わせをいただいています」
全国の寺院での花手水の広まりに、日下さんは目尻を下げる。
「やっぱり、生きているとしんどいことがいっぱい出てくる。壁だらけですよね。そんなときに、花手水で眼から心を癒していただけたら。花手水でしんどいものを全部落としてもらって、“明日から頑張ってみよう”“前進してみよう”という力になれればいいなと思っています。そして、花手水をきっかけに、お寺や日本庭園、そして仏教を好きになっていただけたら、これほどうれしいことはありません」
京都府長岡京市浄土谷堂ノ谷2
【あじさいウイーク】
6/13(土)〜7/5(日)
【開門時間】9時〜16時
【拝観料】ウイーク期間中のみ300円(上書院・寺宝庫に入れる共通券は1000円)
【対策】マスク着用必須、参拝前にアルコール消毒、上書院は20分ごとに20人の入場制限