イケメンすぎる発言に
“いい意味で”裏切られる

 反対に、顔面力が彼の芸人としての力量を引き上げた面もあるのかもしれない。 

 稲田はしばしば“ジェントル”と形容される。先輩として彼に接してきた千原ジュニアは、「心が本当に彫り深いんですよ。心の彫りの深さはすごいよ」と評した(『アメトーーク!』2019年7月25日)。 

 なるほど、稲田を見ていて印象的なのは、そのジェントルさ、物腰の柔らかさだ。番組内でアンガールズ・田中とお互いの見た目をめぐり言い争いになったときのこと。田中が「唯一下を見つけたのにさ。俺のほうが全然上よ」と主張すると、稲田は諭すようにこう言った(『アメトーーク!』2019年12月30日)。

「上ではない。我々は争ってはいけない。我々は手を組まないといけない」 

 学祭の営業でのエピソードも印象的だ。質問コーナーで、男子学生から「女にモテるにはどうしたらいいですか?」と尋ねられたときのこと。学生は稲田をイジるような態度だったという。そんな彼に対し、稲田は次のように答えた(『アメトーーク!』2019年7月25日)。

「まずは自分を愛すこと」

 インパクトある顔面をめぐり、その場に緊張が走りそうになったとき、稲田はしばしば緊張を和らげる言葉を一瞬の間合いを突いて発している。その言葉は融和的で、かつ、仕掛けてきた相手や周囲が依って立つ前提へと切り込む鋭さがある。

 “ブサイク芸人”がそろうと、どちらがより“ブサイク”かをめぐり言い争うさまが面白い、容姿をイジられた際にムキになって言い返す様子が面白い、そんな周囲が期待する前提を、稲田は柔らかい口調で裏切り、笑いに変える。なんだか、見た目を笑いに変えることへの批評性を感じ取りたくなるほどだ。

 これはおそらく芸人になる前から培ってきた技術なのだろう。彼はこれまでイジメられた経験がないという。周囲からのイジリを一方的なイジメへと転化させずに対等な関係に持ち込む技術を、彼は芸人以前から体得してきたのではないか。それが今、芸人としての力量に結実しているのではないか。

 2019年の「よしもとブサイクランキング」で1位に輝いたとき、彼は笑いを交えて、こう謙遜した(『ロンドンハーツ』2019年5月14日、テレビ朝日系)。

「吉本のブサイクランキングなんか、僕にとっては地方予選。勝って当たり前なんで、弱い者イジメしてるみたい」