絶滅危惧種のチンパンジーとして……

「チンパンジーは4歳ごろまでが乳児ですが、野生では乳児の間はずっと母親と一緒に過ごします。また、群れの中でさまざまな年齢の相手と遊んだり、子守りをしてもらったり、ときにはケンカをしたりします。このような経験をすることで、野生での生活を送るために必要な社会的スキルを身につけていきます。

 しかし、パンくんやプリンちゃんは、テレビや動物ショーに出るためにチンパンジー同士のコミュニケーションの機会が奪われてきました。そのためチンパンジーの集団で暮らしていくのに必要なスキルを修得できていないかもしれません。

 たとえば、目上のチンパンジーへの“挨拶”である、身を低くして相手に近付きながら喘ぎ声を出す『パント・グラント』と呼ばれる行動がありますが、プリンちゃんたちはこれを修得できていない可能性があります。

 また、交尾や育児といった行動も今のままでは修得できないでしょう。繁殖・育児の妨げになるという点は、絶滅危惧種であるチンパンジーの保全という観点からも問題です

『阿蘇カドリー・ドミニオン』や『天才!志村どうぶつ園』のパンくんやプリンちゃんの扱いに対しては、類人猿の研究者や動物園関係者で構成されるSAGA(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)などが、これまでにも批判の声明を何度も出している。

「問題が解決せずに続いてきたのは、多くの視聴者や観衆が番組や動物園を支持してきたからでもあるでしょう。この先この問題を改善できるかどうかは、視聴者や観衆のみなさん次第という部分もあると思います。

 最近の『志村どうぶつ園』では、志村さんの後に園長を引き継いだ相葉雅紀さんが、プリンちゃんとオンラインで対面するという内容が放映されていました。プリンちゃんを引き続き番組で取り上げることへの視聴者の期待も高いようです。

 しかし、パンくんやプリンちゃんのことをかわいいと思うなら、好きだと思うなら、彼らの置かれている状況の深刻さについて、ここで考えてもらいたいのです。人間の娯楽のために、この先もチンパンジーを使い続けて本当にいいのでしょうか?」

プリンちゃんの縄跳びを指導する『阿蘇カドリー・ドミニオン』の宮沢厚園長の著書には、動物ショーは《動物にやさしくする心を育む》と書かれている。

「逆です。動物へのひどい扱いに気付けなくなり、優しくする心が奪われてしまう。こういう動物ショーは、そういう意味でも人間にとって有害だと思います」(松阪さん)

 強要ともとれるプリンちゃんのショーへの出演や松阪さんの指摘について、『阿蘇カドリー・ドミニオン』に質問状を送ったが、期日までに返答はなかった。

 普段、私たちが好感を持って見ているアニマルショーも、動物たちが本当に自信と誇りを持ってパフォーマンスをしているのか、今一度考えないといけないのかもしれない――。