その後フィンランドのコオロギの養殖ファームやメーカーへの訪問調査も行い、1年余りでコオロギせんべいの発売にこぎ着けたが、初めて扱う食材なだけに苦労は多かった。商品開発に携わった良品計画食品部の山田達郎氏は「製造工場の選定から、コオロギの養殖環境やパウダー化の過程に関するルール作りまで、試行錯誤の連続だった」と振り返る。
壁の1つは、徳島大学で養殖した食用コオロギを菓子に製造・加工できる工場を探すことだった。「コオロギ」という材料名を出しただけで拒否反応を示される工場が多かったうえ、アレルギー対応の問題からエビやカニなど甲殻類を取り扱っている工場であること、害虫が入らない清掃を徹底した環境が整っていることなどの条件もあった。
候補は限りなく絞られ、最終的に以前から取引のあった、えびせんべいを製造している愛知県のメーカーが引き受けてくれることとなった。
工場が決まっても、試作を繰り返す日々が続く。当初はコオロギの姿をそのまま残した”押し焼きせんべい”を作ろうしたが、「どうしてもせんべいが割れてしまい商品にならず、パウダーにして入れないと駄目だと判断した」(山田氏)。
パウダー化するにも、粉の粒度が荒いと脚の形が残るなどの問題があり、どこまで細かく粉砕するかで頭を悩ました。また、コオロギ特有の風味を強く出そうと思っても、パウダーを入れすぎると生地が割れやすくなるため、パウダー投入量の調整も一筋縄ではいかなかったという。
商品パッケージにQRコードを印刷
苦労の末の発売後は想定を上回る人気ぶりとなったが、神宮カテゴリーマネージャーは「ツイッターで“コオロギせんべい”がトレンドワードに入るなどSNSでも拡散され、興味本位で購入された方も多いのではないか」とみる。
一時的な話題性だけで終わってしまわないよう、発信面での工夫も凝らしている。無印の食品では初めてパッケージ上にQRコードを印刷し、コードを読み込むと昆虫食の意義が説明されたページに飛ぶようにした。実店舗でも、顧客の目に留まりやすい場所にコオロギせんべい専用のコーナーを設けて、製品化の背景とともに発信する。
消費社会へのアンチテーゼとして生まれた無印は、地球や社会のために素材選定や生産工程の見直しを追求する姿勢こそがブランドのモットーでもある。持続可能な食料資源として注目される昆虫を原料とした商品の投入は、無印のブランディングを強化するうえでも大きな役割を果たしそうだ。