ドラマに戻ってきた理由

 ひとつには、筒井道隆佐藤健のように、「人気俳優」「アイドル俳優」になりかねない場所から脱却するために、活動の主軸を映画などに移し、着実に力をつけ、役者としての幅を広げてから連ドラに戻ってくるというパターンがあるだろう。

 また、綾野剛や星野源など、信頼している脚本家や制作スタッフの座組に呼ばれるかたちで、久しぶりの連ドラ出演を果たすパターンもある。

 内野聖陽浅野忠信など、作品性や役柄・企画のチャレンジ性によって出演を決定していると思われるパターンもある。

 実際のところ、かつてドラマに多数出演していたものの、映画メインになった役者にその理由を尋ねると、非常に大まかで幅をもたせた映画特有のスケジュールのおさえ方がドラマから遠のいた原因でもあるという。

 もちろん1週間程度で撮り切る映画もあるが、以下のような理由がある。

・短期間で撮り切る作品もあるが、ロケ先でその役柄に入りこむ場合、合間にドラマの仕事は入れにくい。

・映画は撮影から公開までの進行が予定どおりにいかないことも多々あり、スケジュールが読めず、ほかの仕事を入れにくい。

・スケジュールの都合で一度断ると、「ドラマを受けない人」という印象を持たれ、以後、あまりオファーが来なくなる。

 当然ながら、本人の意向に関わらず、事務所の売り方・方針によって、連ドラから遠ざかるケースも多々ある。

 おそらく妻夫木の場合は、佐藤健筒井道隆のケースに近いのだろうが、彼の場合、アイドル的人気があったうえに、大河ドラマ主演まで果たしているだけに、作品選びが難しい面はあるだろう。主演以外の仕事が入りにくいうえ、「失敗できない・させられない」プレッシャーは相当なものだと思う

 とはいえ、今はコロナ禍で映画の撮影・公開が見送られる作品も多いため、通常よりも役者のスケジュールにすき間ができやすい。なおかつ視聴者たちの在宅率が上昇していることで、数字も稼ぎやすくなっている現状は、連ドラにとって追い風となっている面もある。

 映画館でしか観られなくなっていた役者を、連ドラで観られるのは、やはり嬉しいもの。『危険なビーナス』の妻夫木聡を筆頭に、“久しぶりの連ドラ出演”の役者たちが見せてくれる芝居を、存分に楽しみたい。

PROFILE●田幸和歌子(たこう・わかこ)●1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。