リニア中央新幹線で
増収を見込めるワケ
そんなJR東海は、品川~名古屋でリニア中央新幹線を建設している。その後、大阪まで延伸する計画で、品川~名古屋の事業費は5兆5,235億円、大阪まで延伸すると総額9兆300億円にもなる。
他の新幹線は公共事業として建設されるが、リニア中央新幹線だけは、JR東海が自己負担で建設する。もちろん、東海道新幹線による安定的で莫大な利益があるためだ。
開業後には増収も見込んでいる。10年前に同社が公表した試算によれば、品川~名古屋の開業だけで1,030億円の増収になるという。
その要因の1つ目は、飛行機からのシフトである。
品川~名古屋が開業すると、名古屋駅で乗り換えになるが、品川~新大阪が約40分も短くなる。品川~山陽新幹線区間も同様に時間短縮し、それが大きな効果となる。東京圏~大阪圏では、新幹線のシェアが圧倒的だ。しかし、大阪から西に行くほど、東京圏との移動には飛行機が存在感を増してくる。
飛行機との競争は、山陽新幹線(新大阪~博多)を運営するJR西日本には死活問題で、JR東海にとっても、東海道新幹線の利用者数に関わる重要問題だ。シェア争いが厳しいが、逆に言えば、鉄道会社にとっては乗客を奪える余地が大きいとも言える。
品川~名古屋でリニア中央新幹線が開業すると、それだけでも年間で492万人が飛行機からシフトすると試算する。JR西日本も救われるが、JR東海にも690億円の増収をもたらす。
2つ目は、東海道新幹線よりもリニア中央新幹線の方が運賃・料金が高い点にある。
品川~名古屋の運賃・料金は、リニア中央新幹線の方が667円(税抜き)高くなる予定だ。東海道新幹線から5,192万人の乗客がシフトすれば、それだけで340億円の増収になる。新型コロナウイルス前の乗客数を基準にすると、東海道新幹線利用者の約3割がシフトする計算である。
ここまでで1,030億円の増収になる。それだけでなく、新規需要の誘発、高速道路からのシフト、山梨県、長野県でのリニア中央新幹線の新駅開業、東海道新幹線での「ひかり」「こだま」の増発と、他にも増収要素はある。
一方、品川~名古屋が開業するまで、JR東海は巨額な投資に耐えられるのか。
JR東海は、国鉄からの債務を引き継ぎ、事実上の長期債務残高を5兆円以上も抱えて発足した。それを30年弱で2兆円以下にまで圧縮している。つまり、5兆円の長期債務残高を乗り越えた実績があるのだ。これを一つの目安として、リニア中央新幹線の建設でも長期債務残高を5兆円以下に抑える計画だ。