親から暴力を受けた子どもが抱える無力感
お父さんが、伊勢谷のお母さんにも肉体的な暴力をふるっていたかは不明ですが、両親の激しい口論を見聞きすると、言葉をしゃべれない年齢の赤ちゃんですら強いストレスを感じるそうです。仮に肉体的な暴力がなかったとしても、父親と母親の間に支配的な空気が漂っていた場合、男の子は「オンナはオトコの言うことを聞くもの」と刷り込まれていきます。だから、彼らは大人になって恋人や妻が思いどおりにならないと、親がしていたのと同じように暴力をふるってしまうのです。しかしながら、親から暴力被害にあった子ども全員が、加害者になるわけではないことも申し添えておきます。
『私は親のようにならない 改訂版』によると、「暴力の中で育った人は、言葉と行動によって繰り返し送られたメッセージ、おまえには価値がない、何をするにも値しない、たいしたものにはなれない、正しいことなど一つもできない──を心の中に取り込んでしまいます。そのため彼らは常に絶望感と心細さを感じていて、頻繁に抑うつ状態に陥ります。嗜癖に走る人もいますし、暴力の加害者になっていく人も多く見られます」とあります。
つまり、親から暴力を受けることで、子どもは自信のなさを抱えて成長し、大人になって自分も暴力をふるうようになったり、薬物やアルコールに溺れる可能性があるということです。
『アシタスイッチ』で、伊勢谷は社会貢献に取り組む理由を「自分のために生きていない。人のために生きて、自分が生きることができる」と説明していましたが、これは伊勢谷の自信のなさの表れではないでしょうか。オノレのことよりも、他人を大事にする滅私的な姿勢は日本人好みなのかもしれませんが、伊勢谷の闇をよく表しているように感じるのです。
見た目や聞こえは華やかでも、自分は無力な存在だと心のどこかで思っているから、社会貢献を通して「自分は役に立った、価値がある」と肌で感じたいのではないでしょうか。もしそうなら、それは他人を使って自分をなぐさめる、一種の依存だと思うのです。
お父さんから美男という遺伝子受け継ぎ、その一方で負の連鎖をも受け継いでしまったのかもしれない伊勢谷。そういう親への愛や悲しみをわかちあえる実の兄、寛斎さんはもういません。今は罪の重さをかみしめるとともに、弱い自分を直視する勇気が必要なのかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」