今作『半沢直樹』が表現するもの
表面的には2013年度版のスタイルを踏襲しているように見える。
前シリーズでは古臭い昭和の物語にみえた会社組織の派閥争いをめぐるゴタゴタも、コロナ禍における日本政府の後手後手の対策や、東京オリンピック開催をめぐるグダグダの状況をみていると、むしろ昭和的な会社組織が令和の時代まで温存されていることこそが今の日本の宿痾(しゅくあ)なのだなと改めて実感させられる。
物語のスケールも大手航空会社の経営再建を巡って国土交通大臣と対決する姿を描くことで、本作が内包していた権力批判のテイストはより際立っており、その意味でも今見るべき作品に仕上がっている。
しかし、過剰なまでに前作をなぞったがゆえに、公式二次創作を観ているような印象もある。いちばん大きく変ったのは役者たちの演技だろう。福澤克雄の演出は顔のアップを多用しているため顔面芝居と揶揄されることも少なくない。実際には引きのカットも多く、エキストラを大勢集めたモブシーンなどもある。ほかのドラマと比べると何倍もリッチな映像なのだが、最終的にいちばん印象に残るのが「役者の顔」だということなのだろう。
今回の『半沢直樹』でもそんな顔面芝居は健在なのだが、よりパワーアップしており、味付けがとにかく過剰だ。
市川猿之助、尾上松也、片岡愛之助といった歌舞伎俳優が多数出演していることもあってか、今までの池井戸ドラマが現代を舞台にした時代劇だとしたら、今作はまさに半沢歌舞伎!
また、続編ということもあってか、前作で半沢と敵対した男たちと共闘する展開が続いており、それに伴い前作では、あれだけ憎たらしく感じたおじさん俳優たちが、妙に愛嬌のある姿を見せている。
その筆頭がなんと言っても、香川照之が演じる大和田だ。劇中には半沢の「やられたらやり返す、倍返しだ」に対する大和田の「施されたら施し返す、恩返しです」という決め台詞まで登場。派閥争いに翻弄される小悪党ぶりが逆に共感を集めており、いまや主役を喰う勢いだ。
元々、香川は教育番組『香川照之の昆虫すごいぜ!』(NHK Eテレ)にカマキリの着ぐるみで登場するような愛嬌のある俳優なのだが、そんな香川のキャラクターが大和田にフィードバックされているのを観ていて強く感じる。おそらく番組スタッフは、スピンオフドラマ『大和田暁』を狙っているのだろう。
役者の暴走を取り入れ、より過剰な味付けを施したことで、今の『半沢直樹』は、役者を楽しむためのバラエティー番組に変貌したと言っても過言ではない。それはそれで楽しいのだが、何か大切なものが失われつつあるようで、素直に喜べないものがある。